夢の裏
地に伏せてピクリとも動かなくなった体を見つめる。その視線に労りなどは含めず、ただ観察するために。しかし、見ているうちに心の底にくすぶる感情を無視できなくなってきて、場に合わないと自覚していても笑うのを止められなかった。
(面白い奴)
子供の頃に感じた頃の感覚に似ていると思う。新しいおもちゃを得たときの感覚。何かを得る前の期待感。何かを得たいという欲求。それらを満たしてくれそうなもの。そういう直感には長けている自信がある。その直感により、今まで生きてきたのだから。
「反対だからな」
「何にだ?」
正しく問いを理解していながらも、口に出させようとすれば、一護が苦々しげな表情を更に歪めた。腕は立つくせに、どうしても甘さが抜けない一護にとっては面白くも何ともないだろう。こいつは女、子供を傷つけるのを嫌う。不可抗力であったとは言え、手加減なしで剣の柄で女を殴り飛ばし、気絶させたのだから気分が良いわけがない。殺したわけではないのだから、気しなくてもいいと思うが、そういう問題ではないという返事が返ってくるのが分かり切っているので敢えて口には出さない。ただ、とっさの判断で剣を抜かず、気絶に留めたことを褒めてやれば、ますます嫌そうな顔をした。
「恋次。お前な、こいつがどんだけ厄介事なのか分かって言ってるんだろうな?」
その感触がよほど気に入らないのか、ぶらぶらと右手を振りながら、こちらに向き直る一護の目が、誤魔化しは許してくれないと言っている。道楽で許される範囲ではないので、分からないこともないが、そこまでかりかりしなくてもいいだろうとも思う。
「恋次!」
「あーはいはい。わーったよ。…理吉」
「は。ここに」
「花太郎を呼んで来い。あと、人を払え」
「はい。…さぁ皆、聞こえていただろう。行けっ」
そう声をかけ、陰に控えていた理吉が気配を消すと部屋の中には俺と一護とアメジストの魔女だけになった。気絶した女を余り床に転がしておくのもどうかと思い、腰を上げようとすれば、その前に一護が動いた。小さな体を横だきにして、長椅子へ寝かすと、俺の正面に座り込む。
「一護。俺の呪いを知ってるよな?そんで、それがアメジストの一族にしか解けないってことも」
「違うだろ。アメジストなら解けるかもしれないって可能性があっただけだ。でも、こいつは解けないって言った。なら、用なんてねぇだろう。危険を冒して匿うことはない」
「本当だと思うか?こいつは普通なら分かるはずもない呪いを言い当てたんだぜ」
「だからと言って、解けるか解けないかは別の話だ。それに解けるなら別のアメジストを探せばいいだろ、こいつでなくても」
「本当に存在するかしないかすら、はっきりと分からなかった伝説の一族だぜ?運よく会えた、こいつを逃す手はねぇって。次、なんて悠長なことを言ってる時間もねぇことだし。それに、見たか?服の刺繍が剣に変わったろう。短剣が変形したのは何でだ?初めて見る術だ………欲しいと思うじゃねぇか」
「馬鹿か、てめーが欲しいと思ってるもん。他人のもんだろ」
「今日までな。明日からは違うだろ」
茶色の瞳が、こちらの瞳をじっと見つめる。まるで心の底まで見透かすように。言葉は無駄だ、時としては短い、感覚としては長い長い、沈黙が部屋を満たす。そして、ようやく一護がため息をついた。
「………やっぱり無駄かよ」
「分かってたんなら、言うんじゃねぇよ」
「馬鹿か!?言わずにいられるか!てめぇ、こっから先、どんだけ苦労するか分かってんだろ!!」
「ああ。すまねぇ、迷惑をかける」
そう言って頭を下げてしまうと、何かを言いたそうな顔したまま、けれど何も言えずに一護が盛大に舌打ちをした。そして、そのまま足音をたてながらズカズカと扉の前まで歩いていくと、扉は音も立てずにスと開いて、一護はそのまま出て行ってしまった。入れ替わりに、花太郎を後ろに控えた理吉が入ってくる。花太郎にアメジストの魔女を診るように言うと、鬱血の場所を見て、ここではちょっとと躊躇いを見せたので別室に連れていくのを許可した。
理吉が持ってきた剣を腰に下げると、ようやく落ち着く。命じるのはいいが、他人に行動の全てを任せるというのはどうも苦手でならない。
「………本当に、いいんですか?」
「お前まで言うのか?」
「いえ、ご命令ならば」
「出てくる。魔女をこの邸から一歩も出すなよ」
ピンと手中にあった銀貨を指ではじいて、もう一度、手中に収める。そこに描かれているのは、見事な赤い瞳と羽をもつ鳥―燬煌王。この国の象徴でもあり、王家だけがその姿を使うことの出来る尊き鳳凰。その理に背くものは皆、灰も残らないほどに焼き尽くすという伝説を持つ。
出来るものなら、やってみろ。我らが砂漠の民、地に縛られず、太陽と月の間に住まう者。強ければ生き、弱ければ死ぬという摂理に殉ずる者の底力を思い知るといい。爪を抜かれた程度で、飼いならしたと思うなかれ、今だこの心に牙はある。首輪を嵌めた程度で、命じるな、我らの心から自由を奪うことは出来ない。
「従者、侍女はいかがしましょう?」
「先に逃がせ」
「危険が増えます」
「だからどうした?」
「………簡単に言ってくれますね」
「出来る癖に、手を抜くなっつってんだ」
黒のマントをはおり、フードを深く被って目立つ髪を隠す。まるで自分を隠すような行為は嫌いだったが、今日ですることもなくなるのかと思うと、多少感慨深いから不思議なものだ。窓から外を見る。月は出ておらず、出立を知らせるようにカーンカーンと特別法地区域、通称"キャド"の中央で鳴り始めた。
なんと更新、2年と一か月ぶり!すごいなーーーーーーーーーーーーーーー。
何がすごいって、こんなに時間がたっててもまだ更新を期待していただいたのがすごい!!!いや、本当にありがとうございます。そして、区切るところ悪くて申し訳ありません。ルキアが気絶したまま…(冷汗)