お姫様だっこ



「あ、こいつ潰れやがった」
「本当だ。朽木さん、弱いんだねー」

そう言って、ひょっこりと横になったルキアの顔を覗き込んだ雛森は、ほっぺたをふにと突くと「かわいい」と言って微笑んだ。

(ルキアが弱いんじゃねぇ、お前が強いんだよ)

狭い室内には、すでに3本の酒瓶が転がっている。その殆どを恋次と檜佐木と雛森の三人で空けていた。一緒に飲んでいたもう一人のメンバーである吉良は、檜佐木に散々飲まされた挙句、 早々に潰れて隅のほうに転がっている。 ルキアはこれで4杯目だ。雛森はすでに何杯だかわからない。酔ってはいるようだが顔には出ず、多少テンションが高い程度で楽しげに飲み続けている。

「何だ。また一人脱落か」

新たな酒を確保して戻ってきた檜佐木が、横になって目を閉じているルキアを見て言う。こちらも相当の量を飲んでいるはずだが、酔った様子はまったく見せない。口調も足取りもしっかりした様子で 室内に入ると、空になった恋次の器に酒を注ぎいれた。

「まだ、飲むんすか」
「もうギブアップか?」

いい加減、頭が痛んできてはいる。しかし、檜佐木の挑戦的な言葉を退けるわけにはいかない。「いえ、いただきます」と恋次は再び、器を空にした。

「きゃー!阿散井君、いい飲みっぷり!檜佐木先輩、私にも」
「ほら」

再び、変わらぬ様子で飲み始めた二人を小さく「化け物」と称して、恋次はルキアを見る。小さな体を丸め、恋次にピッタリと身を寄せて眠っている。戌吊の時にはよく見ていた光景だった。

「先輩。隣の部屋、借りてもいいっすか?」

この家の主である檜佐木に尋ねる。この男は真央霊術院の生徒の身である上、流魂街出身のくせに、なぜか瀞霊廷内に小さな家を持っていた。どうやったのだ、と尋ねた時にずいぶんと意味ありげ な笑い方をしたので、深くは追求していない。ただ、こうやって飲み会を開くときに便利なので、たまに利用させてもらっているのである。

「あぁ。いいぜ。布団は適当に使え」

すでに何度も訪れているので、勝手は知っている。言われなくとも、そうつもりであった。

「すんません。じゃ、遠慮なく」

立ち上がり、ルキアを抱きかかえる。どうやら、まだ足にはきていないようだ。

「あ、お姫様抱っこだー」

手を叩いて、雛森が喜んだ。やっと酔いが回ってきたようだ、このぶんだと飲み会のお開きは近い。

「いーなー。私もやって貰いたいなー」

駄々をこねるように、甘い声を出す雛森。しかし、やって貰いたいとは言うが、誰にとは言わない。吉良が雛森を好きなことを知っていて、雛森の恋心が誰に向いているのか、薄々気がついている 恋次は暢気に転がっている級友を見た後、「馬鹿いってんじゃねぇ」と悪態をついて部屋を出る。

「二人きりだからって、エロい事すんなよ」

と、後ろからかかった檜佐木の言葉は無視することにした。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇



「ルキア。おい、ルキア」

ルキアを降ろして、手際よく布団を敷いた恋次は、ルキアを布団に寝かせようと再び抱きかかえようとした所で、先ほどの檜佐木の言葉を思い出した。

二人きりの部屋。暗い室内。中央に敷かれた一組の布団。泥酔して眠るルキア。着物の隙間から覗く、ほのかに赤く染まった肌がこの上なく扇情的に映った。しかし、これだけの条件が整っていようとも ルキアが傷つくかもしれない行為には及ぶ事ができない。が、布団まで運んでいって、その自制心をなお持っていられるか自信も無く、恋次はルキア自身に布団に行ってもらおうと起こすのだが。

「ん。も、ちょっと…」

と、寝ぼけるばかりで起きる様子は見せない。

「おい!」
「うぅん」

少し強めに肩を揺らすと、恋次の方へと体を反転させる。そして、腕を伸ばしてきたかと思うと、そのまま恋次に抱きついた。

「ちょ…ルキア!?」
「暖かい」

焦る恋次を尻目に、へにゃと幸せそうに笑うルキア。安心したように再び、寝息を立て始める。

それを見た恋次は、深いため息をつくと、覚悟を決めてルキアを抱きかかえた。
きちんとした布団も無く、ろくに暖もとれなかった日々、お互いに身を寄せ、そのわずかな温もりを糧に生きてきた。逆を言えば、家族の体温が感じられない生活など、したことがなかったという事で、 いつの頃かルキアと一緒に眠ることに抵抗を覚えた恋次でさえ、一人きりの部屋で寝るのには慣れないものがあった。

「気を張ってたのかもしれねぇな」

安心しきった顔で眠る、小さな体をそっと布団に横たえると、髪を撫でてやった。すると、しっかりと体に回っていた手は、あっさりと解かれる。

「どこまで、戌吊ん時の癖が抜けてねぇんだよ。てめぇは」

と、恋次は苦笑する。しかし、今は戌吊ではない。環境も大きく変わった。もちろん、ルキアも。恋次自身も。

ルキアにはあの頃にはなかった女としての特徴が出てきたし、恋次だってそうだ。二人の対格差はますます大きくなり、昔、背おわなければ運べなかった体は、今や両の腕だけで支えることができる。 支えるだけではない。やろうと思えば、簡単に動きを封じてしまう事だってできるのだ。

「襲うぞ。馬鹿野郎」

決してできはしないであろう事を呟く。

「早く気付けよ」

心からの願望を囁くと、それに答えるようにルキアが頭を上下した。偶然だ。そうわかってはいるが、小さな安心感を抱いて、恋次はそのまま眠りに着いた。






こういうパターンが大好きです。わんこは「待て!」ができなきゃね☆
しかし、お題をやっていると下らないギャグばかり考えてしまうのはなぜだろう・・・・。
[18.2.15]