手
ひょい。と、何気なく恋次がやったその動作。それをルキアはじっと見ていた。
「むぅ…」
誰もいなくなった教室。そこで、一人、机に向かい唸るルキアを見て恋次は首を傾げた。
(何やってんだ?)
今日は、二人が贔屓にしている甘味屋へ行く約束をしていたのだが、恋次のクラスの実習が延びたためルキアを待たせることとなった。もう帰ってしまっただろうかと、がっかりした気持ちで 実習を終えた恋次だったが、机に入っていた「教室で待っている」というメモを見て、急いで来たところなのだが。
「んー」
相変わらず、唸るルキア。よほど目の前に集中しているのか、恋次に気付く様子はまったくない。
それをいいことに先ほど、習ったばかりである霊圧を消す鬼道を詠唱すると、恋次はこっそりとルキアの背後に近づいた。
「なーにやってんだ?てめぇ」
「きゃあ」
鬼道のおかげか、それともルキアが鈍いためか、どちらかは分からないが、ルキアに気付かれることなく背後を取った恋次は、ペシと軽く頭を叩く。驚き、頭を手で覆ったルキアが非難の 視線をよこしてきた。
「何をするっ!」
「馬鹿野郎。死神を志す者が簡単に背後を取られんじゃねぇよ」
「そ・・・それはだな!」
「で、何してたんだ?てめぇは」
ひょいと頭越しに覗くと机の上には一冊の辞書。それ以外には何も載っていない。
(辞書?何か読めない字でもあったのか?)
しかし、ルキアの識字能力は高い。元来の読書好きもあって、自分の所有物である教科書や辞書は殆ど読みつくしたと言っていたのに。
「ま、いいか。早く行こうぜ。腹へった」
その辞書を片手でひょいと掴むと、恋次はルキアに早く立てと促す。するとルキアが目を丸くして「あ」という表情を作った。
「…辞書がどうかしたのか?」
手にした辞書を眺めてみる。が、どこにも変わったところは見られない。重さも普通だし、逆さまにしても何も落ちてくることは無かった。
「な…なんでもないぞ。さぁ、早くいこう。恋次」
急に慌てだしたルキアに違和感を覚える。どうも怪しい。何かを隠しているに違いない。
「ちょっと待て。てめぇ何を隠してやがる?」
「何も隠してなんか無いぞ」
「嘘つけ」
「嘘なんか、ついておらぬ」
だんだんと不機嫌になっていくルキア。
「何すねてんだよ」
「すねてなどおらぬ」
「ふぅん」
「・・・何だ、その余裕の態度は!?」
「いや、別にぃ?」
「貴様っ!ちょっとくらい背が大きいからといって図に乗るな!!」
「何だ、気にしてたのか?」
「!!」
(図星・・・か)
クルリと背を向けてしまったルキアを見て判断する。しかし、恋次の背がルキアより大きい事と辞書になんの関係があるのだろう。謎だ。
(確か、こう、辞書を持ったときに反応したよな)
もう一度、机に置いてみる。掴んでみる。片手で。
「ああ。てめぇじゃ無理だろ。この厚さは」
ようやく得心のいった恋次は頷く。どうやらルキアは、恋次が来るまでの間、どうにかして辞書を片手で掴めないかと挑戦していた所だったらしい。
ものすごい勢いで、ルキアが振り返ると、恋次が掴んでいた辞書を指差し叫ぶ。
「置け!」
「無駄だと思うが?」
「五月蝿い!置け!」
再び、唸りながら辞書と格闘し始めたルキアを恋次は眺めた。
「だから言ったろ」
「…これでは、私が貴様に負けたようではないか」
心底悔しそうに言うルキアを見て、勝たれちゃたまらない。と、鈍い幼馴染にたいして恋次は思った。
(誰のために鍛錬してると思ってやがる…)
「当たり前だ。てめぇに負けるか。体格だってほらよ」
そう言うと、ルキアの軽い体をひょいと抱きかかえる。
「わ、莫迦者!降ろせ!!」
ルキアの抗議を笑って流すと、赤子をあやす様に高く上げて見せた。
「たわけ〜!降ろせといっているだろう!!」
ルキアが赤い顔をして暴れる。その予想以上の抵抗に、恋次の状態がグラリと揺れた。教室がスローモーションで動く。やばいと判断した恋次は、とっさにルキアを抱きしめた。
「いててて…。大丈夫か?ルキア」
「ああ。まったくふざけ過ぎだ」
「あー?ああ、悪かっ…」
ハタと気がつくと、ルキアの顔が目の前にあった。
やけに柔らかい体は自分の上にのっていて、少しでも動けば触れそうな位置に唇。恋次がその状況に固まっていると、ルキアを大きな瞳を一度パチクリと瞬きして、
「ふふ。貴様、真っ赤だぞ」
と、可愛らしく笑って身を離した。
「さて、早く行かねば、閉まってしまうな。…いつまで床に寝ているつもりだ?行くぞ」
んー。と背伸びをし、先に教室を出て行く後姿を見ながら、やはり一生、勝つことなどできないかもしれない。と、思ってしまったのは恋次だけの内緒となった。
他サイト様で書き込んだ妄想。反応していただけたら、かなり嬉しい。
これでもか。ってくらい、恋次がルキアにべた惚れですが。いいんです、らぶらぶだから。
いいんです、恋次だから。
らぶらぶ題は「恋→ルキ」ベースにバカップルでいきたいと思っております。
[18.2.15]