寝顔に…
「おい、ルキア!この書類なんだけどよー」
霊圧で話相手が職務室にいるのを百も承知で。ノックもせずに入ると飛んでくると思った小言の代わりに耳に入ったのはすぅすぅという寝息。みると長椅子にちょっと寝苦しそうな格好で体重を預けるルキアが春の陽気に誘われている最中だった。
「のんきだなぁ…、ヲイ」
俺は今まで会議に出てたっつのーに、まったくいい身分だ。隊員に見られたらどうするんだよ。示しがつかねぇぞ。などとぼやきつつ羽織りを脱いでその体にかけてやる。春と言っても夏が来るより冬に遡る方がまだ早い。寝ている間に体が少し冷えてしまっていたようで、スッポリと体を覆った羽織りをルキアは器用に体へ巻きつけた。
「これをルキアに憧れてる奴らにみせてやりてぇな」
なんて実際には決してやらないだろう事を言ってみる。こういう顔を知っているのは自分一人で十分。
だけど、見せてやりたいと思ったのも本当。一見クールで冷たい感じがするけれど、実は面倒見がよいと評判のルキアは。小さな体で先陣に立ち大きな虚を切り伏せる様が語られ男女問わず憧れている者が多いとか。その上、死神全体を通しても珍しいのに更に四番隊に所属していない治癒鬼道の使い手であり、朽木家の娘であり、尸魂界・現世を巻き込んだ崩玉の件で活躍した死神であり、異例の大出世をした副隊長だ。ルキア自身、聞いたら驚き否定するような活躍談があちこちで流れている。
しかしそれは真実として語られているわけで。活躍を信じて疑わない新米達はそんな英雄のような死神がこんな無邪気な顔して寝てると知ったらどう思うだろう。きっと、ルキアの最近よそよそしい隊員が増えたなんてくだらない悩みが吹き飛んでしまうんじゃないだろうか。
もぞもぞと動いた後にうぅん。と唸って皺を寄せた眉間にキスをする。
「あと10分だけだからなー。しっかりいい夢みとけ」
普段、理吉に整理を任せてばかりの書棚に目線を巡らせ目的の冊子を探すが見つからなかった。呼べばすむ話だがそんな事はしない。職務中はさすがに別だが、俺たちしかいない時や二人だけのときは名前で呼び合ったりしてルキアと理吉は何だか仲いいし。理吉にこんな無防備なルキアを見せてやる義理はないし。
カタリと椅子をひいて机へと向かう。仕方がないので先に目を通していない書類を片付けることにした。
「…んじ。恋次!」
「あ?」
パチリと目を開けると陽がすでに傾いていて、どうやら自分も眠っていてしまったらしい事に気がつく。前に垂れる髪を後ろに流し、変な体勢で寝ていたため強張った体を伸ばすと肩から羽織が落ちた。あれ、これってルキアに貸してたような、そういえば髪も纏めたような気がするんだが…。俺を起こした後はさっさと手際よく帰り支度をしているルキアをぼんやり眺めながら、何だ今日は早く帰るのかと思う。少し寂しく思いながらも仕方がないと昼間やり残した書類に手を伸ばした。
「それならもう終わったぞ」
「へ?」
「隊長印は必要なかったのでな。過去の書類を元にして私が作った。後、捺印してもらった書類は全部他隊へ回したから不備がなければ今日の仕事は終いだ」
「そ、そうか…」
パラパラと手元の書類をめくってみると几帳面な文字が並んでいて、元々俺が考えていたものと差が殆どなく一読しただけで確認も終わってしまった。何となく肩すかしをくらった気分でまたぼんやりしていると帰らぬのか。と声をかけられる。
「ルキア。お前、今日空いてるだろ?」
「同輩と酒を酌み交わす程度の時間なら許されているぞ」
髪が解かれていたおかげで軽い頭を巡らせ、どの店がいいかなと考える。旬の魚を使う店…いや、春野菜の天ぷらも美味そうだ。ルキアに聞いてみるのもいいかもしれない。こいつなら美味いところを知っているだろう…その分の値段がきちんと支払いにのってくるような所ばかりだったらどうするか。
「恋次。早くしろ!」
「おお。今行く」
とりあえずルキアの意見を聞いてから店を決めることにして執務室を出た。
寝顔に…、はやっぱりキス
ほのぼのですからおでこちゅー。ほのぼのはプラトニックで。それが許される環境を書いていきたいと思います。