TEST



「さぁ。約束を守ってもらいましょうか?」

学校用の笑顔のまま私は、それを彼女らに強要した。右から順に彼女らの特徴を言えば、ショートヘア、茶色のロング、セミロング。髪型以外は、同じように可愛く化粧をし、同じように耳にピアスをしている。つまり、髪型以外では私には個人の特徴を掴むことが難しく。現代の女子高生っぽい。テレビの言葉を借りるのなら、今時の子というのが彼女らの共通で最大の特徴だった。向かいのソファに座る彼女らは、時折、悔しげに私を見るが、その左右に視線をやった途端に再び俯き口を閉ざし続ける。

「えぇと?ルキア…」
「…話が見えねぇんだけど」

右から恋次。左から一護。二人から居心地が悪そうな声がかかる。私はやはり学校用の笑顔で「お二人は少し黙ってらして?」と言った。

「…ずるい」

真ん中に座っているロングヘアの少女が搾り出すように言う。この期に及んでとため息をつきたい衝動を抑えて、あえて笑顔のまま私は「何がかしら?」と聞き返した。

「あんた、ずるしたんでしょ!でなきゃ前回のテストで最下位すれすれだった人が、いきなり中間テストで上位50人の中に入れるわけがないじゃない!」
「そうよ、何かズルしたに決まってる!」
「そんなの認められないわ!」
「大体。そいつら連れてきてどういうつもり?」
「私達を脅すつもりでしょ!卑怯だわ!」

最初の少女の言い分を口火に、よくもまぁ想像力が豊かな事だと感心させられる言葉まで、次から次に彼女達が喚き散らす。前も思ったのだが、年頃の少女というものは皆こういうものなのだろうか。現実と空想の境目が酷く危うく、自分の感覚を他人とが同じだと信じている節がある。一通り言いたい事が言い終わったのだろうか、「とにかく」と一人の少女が言葉を切る。

「私達、認めないから。帰るわ」

ガタガタと席を立ち始めた彼女達をその場に留めるために、私が慌てて立ち上がろうとすると、恋次に肩を押さえこまれた。

「っ!離せ、恋次」
「いーから。あんな奴ら行かせろ」

そのやり取りを聞いたのだろう、最後に席を立ったセミロングの少女がキッと振り返った。

「テストもそうやって男に助けて貰ったんでしょ!恥知らずっ!」
「!」

さすがの言葉に、声も出ない。

「馬鹿なのも大概にしとけ。恥知らずはどっちだよ」

私が口を開いたままでいると、一護がそう言った。その言葉に三人がいっせいに振り向くが、こちらを見たとたんに血相を変える。何かを言いたそうに、口をパクパクとさせるが、結局は何も言わずに逃げるように店内から出て行ってしまった。この騒動でシンと静まり返ってしまったファミリーレストラン。いつもよりも5割ほど不機嫌そうな顔をした二人と同じか、それ以上の顔をして口を開く。

「逃げられたではないか。たわけども」



◇     ◇     ◇     ◇     ◇



さすがに居づらくなったファミリーレストランを出て、近所の公園へと場を移した。ギィと古びた音をたてて、ブランコが鳴る。その隣のブランコも一護がギィと鳴らして、恋次はブランコには乗らずに前の小さな柵へと腰を下ろして口を開いた。

冷静になってみれば、とても気まずく。二人の視線から逃れるように、私は地に目を向ける。ゆっくりなつもりだが、目に映る小石が移動するスピードは速い。

「んで?何だったんだよ、今日のアレは」
「………撤回してもらう予定だったのだ」
「何を?」
「言いたくない」
「あんだけの騒動に巻き込んどいてか?」
「…くだらない事だ」
「さっきのでそれは十分わかってる」
「……言っても意味がない」
「それは俺達が決める」
「………やはり、言いたくない」
「「いいから言え」」

多分、おおよその事は先ほどの騒ぎでわかっている筈なのに頑なに二人は訳を知ろうとする。そんな顔を交互に見て、どちらの目にも頑固な意思が宿っているのを見てとれ、私は深々とため息をついた。いつもは言い合いばかりしているのに、何でこういう時だけ気が合うのか。嗚呼、面倒だ。

「先日。あやつらに呼び出された。以上だ」
「その前になんかあったろ」
「…隣のクラスの男子生徒に交際を申し込まれて、断った」
「何て?」
「別に。普通に」
「その時に何て言われたんだ?」
「何も」
「「嘘つけ」」

…なんでこやつらは、こんなにも聞きたがるのだ。聞いても面白いことなぞ、一つもないというのに。私はどうにか誤魔化す術がないかと思考を巡らせるが、どれも上手くいきそうにない。こんな時に虚でも出てくれたら。とも思うが、ポケットの中の伝令神機が鳴り出す気配はなく。仕方なしに、すべてを告白する覚悟を決めた。

グンと強く一度だけブランコをこぐ。ほんの少しだけ近くなった夕日が、笑っているようで気分を害した。

「………何を言われたかは殆ど忘れた。しかし、貴様らの事を悪く言われたっ」
「「………」」
「だから、お前なんかよりはよっぽどマシだと言ってやったら、どこをどう伝わったかは分からん。しかし、そやつの取り巻きだったらしいあやつらに呼び出された」
「「………………」」
「そこでもあの調子で訳のわからぬことを言われ、大抵黙っておいたが、何故かあやつより貴様らのほうがマシと言ったことを撤回しろと迫られた。…でも、撤回しなかった。いい加減、我慢の限界が来たのでな!逆に貴様らの悪口を撤回しろと言ったら、いつの間にか私が中間テストで50位以内に入ったらという条件になっていたんだ。後は知ってのとおりだ!」
「「………………」」

沈黙が重苦しい。こやつらが何を考えているか、手に取るように分かる。こんな子供のけんかに巻き込んだ私に呆れているのだろう。私とて、ムキにならずに流しておけば良かったのだとは分かっている。しかし、あのように何も知らない奴らから、見かけだけで何もかも判断する言い様には我慢できなかった。

「黙っていないで何とか言ったらどうだ?自分でも愚かだっとた分かっているのだから…」
「お前。俺達の陰口を撤回させるために勉強してたわけ?」

すぐに予想通りの言葉が返ってくると思っていた口からは、予想外な淡々とした言葉が零れた。

「?そうだが?」
「夜中や休みの日まで?」
「仕方ないだろう。現世の勉学はサッパリ分からなかったのだから、時間がかかるのは目に見えていた」
「そんだけのために、あんだけ必死になってたのか…」
「それだけとは何だ!貴様ら、自分が知らぬところで覚えのない事を言われて悔しくないのか!?」

私は知っている。それがどれだけ人の心を傷つけるのか。言った者にはその気はなくとも、言われたものは時に深く傷つく。一護も、恋次も、その痛みを知っている優しい奴だ。なのに、何故傷つけられなくてはならない?

自分達の価値を軽くする言葉に、私は悔しくて怒鳴る。意味のない事だと分かっていて、己の無力さを痛感する事だと分かっていて、でも、怒鳴ることしか出来ない。私は知っているから。

「あいつらは何も知らないくせに言ったのだぞ?お前たちがどんなに努力したのかとか。どんだけ汗を流したのかとか。そういう事を一つも知らずに。知ろうとせずに言いたい放題!私はっ!…私は、知っているのに………知っていたのに何も出来なかった」

謝罪の言葉は小さすぎて伝わらなかったかもしれない。漕ぐこと止めたブランコはギィとは鳴らずに、強く握った鎖がカチャと音をたてる。もう一度、謝罪しようと顔を上げると左と前で砂が潰れる奇声をたてた。左肩が軽く叩かれる。頭を乱暴に撫でられる。

「「ばーか」」
「んな!?」

綺麗にハモって言われる言葉に、即座に言い返したかったが、左肩と頭に残る暖かさのせいで言葉が出てこない。ここの所、私は言いたい事を言えないでばかりだ。悔しさが胸にこみ上げてきて、暖かい涙がでそうになった。だけど、同時に差し出された大きな手がそれを胸に留める。

「行くぞ」
「帰ろうぜ」

なんで、最後は結局気が合わないのだ。その違いが面白くて、その違いが嬉しくて、少し寂しい。飛びつくように繋いだその手は、どちらもやはり暖かかった。





久遠様リクエスト「一ルキ恋」。王道!?檜佐木さんやら阿近さんやらとの三角関係をやっている我がサイトでは、珍しいやもやも。
んで………………。どっから言い訳しようか、コレ。設定から「な・ん・じゃ・そ・りゃ・!」と頭を抱えてしまふ。当初は石田の所に勉強を教えてもらいに行くルキア。それに嫉妬する一護と恋次。石田受難。で、書いていたのに終ってみれば、石田は消え去った。こ…ここまで綺麗に消えなくても!!
久遠様。大変、お待たせいたしました!こんだけ待たせてこんなのかよ。とか。別に待っちゃいねーよ。とか、色々言いたいことはおありでしょうが!できれば、胸に仕舞っといてください(涙)
リクエストどうもありがとうございました!!!
[18.8.27]