51



「同じ感情を持ってるって分かってからは、殆ど毎日、一緒にいたな。サッカーやってから、図書館行って、気が向けば俺も本読んだし、退屈だと思ったら、ルキアを図書館から引っぱり出して連れ回して。そのうち、ルキアも俺の行動パターンが読めてきたのか、色んなボードゲームやカードゲームを仕入れてきては、二人で熱中したり」

黒崎は、俺の話を酷く面白くなさそうに聞いていた。時折、いらっとした雰囲気も感じ取れる。だが、そんな時でもキチンと相づちを打ち、もういいと話を打ち切ったりはしない。それは、黒崎という人間の生真面目さなのか、それとも、好きな女のことなら何でも知っておきたいという独占欲にも似た何かなのか、俺には判断しかねたけれど、もし後者ならば、思う。

あの、子供の頃のルキアは自分だけのものだ。

俺も、ルキアも、寂しかった。どうしようもなく、寂しかった。それを埋めてくれる相手が、俺はルキアで、ルキアは俺だった。傷を共有し、深く傷つかないように、少しでも癒えるよう二人でいなくてはならなかった。ルキアと共にいることは自然なことで、何となく、一生ルキアと生きていくのだと考えたこともあった。…それは、大きな間違いだとすぐに気づかされるのだが。

「で、ルキアの心臓のこともそん時に知った」
「………」
「変だとは思ってた。だってよ、いる場所がいっつも図書館で、それ以外の場所にいる時も本読んでるんだぜ?小学生なんて、犬っころみてーに駆け回って遊ぶもんだろ。なのに、一人涼しい顔でずっと本読んでてさ。まぁ、お嬢様だからって周りも言ってて、俺もそんなもんかと思って、でも、たまに。ルキアは気づいてなかったろうけど、泣きそうな顔で外見てたりして、そうするとクラスメイトがドッチボールなんかやってて、やりたいならやればいいだろ、って言ってみたら、すごい剣幕で怒って、俺が言い返したりして、喧嘩して。そうしている間に、泣いたんだ」

もう嫌だ、って。子供みたいに、子供のルキアが泣いた。

「その時に決めちまったんだよな。俺がルキアを護るって」

見開かれたブラウンの瞳はすぐに強い意志を持った。その強い光が、譲る気はないと言っていて、酷く羨ましかった。妬みたくなるほどに。きっと、愛されて育った目の前の少年は、護り方を間違いはしない。

幼い決心はまだ胸の内にあり消えてはいないが、その根強さ故に不安が拭いきれない。俺は、またルキアの隣に立てるだろうか。護れるだろうか。今度は過つこと無く。














52


目が覚めると、知っている天井が見えた。見慣れた、と言わないのは、その天井が寝室ではなくリビングのものだったからだ。毎日、見てはいるものの、リビングの天井を繁々と見つめるのは切れた電球を取り替える時くらいのものだ。寝室と比べれば、見慣れてはいない。

視覚からの情報を処理すると、続いて嗅覚が働きだす。コーヒーの香りがして、微笑んだ。やはり未だいたんだと思いながら身を起こすと、一睡もしていないだろうに、そうは見えない普段の顔つきで、テーブルにつきコーヒーを飲んでいる一護と恋次がいた。

「…私の分はないのか?」
「起きての第一声がそれかよ、てめーは。待ってろ、今淹れてやる」
「頼む」
「未だ7時だぜ?もうちょい寝ててもいいんじゃね」
「私がずっと寝ていたら、お前達が眠れないだろう?」

だったら起きるさ。と呟いて、ソファを抜け出すと、目の前にコーヒーが置かれた。見慣れた部屋、知っている香り、馴染みのある味。だけど、何かが違う。

見慣れた部屋はいつもより明るく見え、知っている香りはいつもよりずっと香ばしく、馴染みのある味はいつもより美味しかった。違う何かが分からないほど、幼くもなく、素直に口に出来る程にも大人になれていない私は、黙ってコーヒーを飲む。そうしていれば、また、寄ると同じように何でもない二人の会話に耳を傾けていられるから。

嬉しかった。
だけど、同時に怖かった。
二人に感謝し。
二人に対して恐れた。

彼らはいつまで、一緒にいることを許してくれるだろうか。
どれくらい先まで、私が変らない事をゆるしてくれるだろう。猶予は、余りないように思えた。















[23.2.1]