16



転入してきてから数日がたったある昼休み。

「ねぇ。あんたたちって付き合ってるの?」

好奇心が沢山です!という瞳をキラキラさせながら、突然そう言いだしたクラスメイトの前で。俺とルキアは同時に固まり。そうして、同時に目を合わせた。

「…おい。俺達ってそういう風に見えるらしいぞ」
「…意外だな」

その反応に「違うの!?」と多少大きな声を出して見せるクラスメイト。それを流して、俺は二口目となるかつ丼を口に運ぶ。こちらの学校は前の学校よりも味がいい。たまらないともう一口運ぶ横で、ルキアが俺達の関係をえらく完結に説明していた。それにしても、こいつの落ち着きぶりは何なんだ。

「デートとかしないの?」

その説明では満足しないクラスメイトはなおも食い下がる。デートと呟き、ルキアが一瞬口ごもった瞬間をつく様にそのクラスメイトの名前が呼ばれた。それにて、クラスメイトはあっさりと退場し、俺とルキアには何とも言えない空気が残る。黙々と弁当を再び食べ始めた時を狙って言ってみた。

「デートしてみるか?」

ボトリと落ちた卵焼きが勿体ない。




"測定不可能"















17



「デートと言ってもただの街案内ではないか」
「人に白玉奢らせといて不満かよ?土地に不慣れな転校生には親切にしとくもんだぜ」
「不慣れ?誰がだ」

案内も無しに先に行く恋次は懐かしいとはしゃぎ気味だが、私にとっては目を瞑ってでも歩けそうなくらい慣れ親しみ続けている風景。昨日も今日も、そしてきっと明日も変わらないだろう風景に視線を泳がせる。

「そういえば。どこに住んでおるのだ?」

昔、恋次が住んでいたアパートは取り壊され、跡形もない。一緒に帰宅しても駅へ行く方の道で別れるから、きっと違う街に住んでいるのだろうけれど。

「言ってなかったか?今は親父んとこに世話になってる」
「え」

予想外の答えに歩みを止めると、背中を向けていた筈の恋次も同時に止まって振り返った。

「なぁに、妙な顔してんだ。てめー」
「別に。しておらぬ」
「大丈夫だ。別にお袋んとこ追い出されたわけじゃねぇし。今んとこ親父とも上手くやってるんだぜ?」
「…おじ様とおば様は元気か?」
「元気も元気。呆れるくらいに元気だよ。あ、そうだ。暇があったら一度くれぇ俺ん家来てくれよ。…お袋のほうはちょっと遠いけどよ。どっちもお前に会いたいってうるせぇんだ」

躊躇うことなく恋次の口から出た"俺ん家"という言葉に、本当に行ってみたいと頷いた。




"ただいまを言える場所"















18



たえず時が流れる街の一角。ぽつんと置いてけぼりをくらった様に記憶のままの佇まいに、思わず塀の中を覗き込むと、キッチリ閉じられた雨戸に拒否されてしまった。

「最後まであそこに座ってらしたよ」

ルキアの言葉に頷く。
覚悟していた事だけれど、ぽっかりと開いた感覚は無視できるものではなく。ただ黙って二人でそこに座っている筈の人を見つめた。そっか、もう会えねぇんだ。もう声を聞けねぇんだ。そっか。…そうか。

「俺たち。よく怒られたよなぁ」
「ああ、顔を合わせるたびに怒られてた」
「しかもさ、怒る理由がめちゃくちゃでよ。言ってる事がすーぐ変わるし」
「そこを突いて反論すれば、子供の癖にってまた怒られたな」
「そうそう。んで、仲直りの品は絶対に手作りの和菓子」
「餡子が一番美味かった」
「他のとこはイマイチで。文句言うとまた怒るし」
「…それでも、全部食べてた」

ここで色んなことを学んだ。沢山のものを与えられ、何も返せないままいってしまったのか。こんな事を言ったら怒られるのだろうけれど。

「ただいま。そして、ごめんな」

主のいなくなった縁側は何にも答えてはくれなかった。




"この気持ちどこまで届くかなぁ?"















19



「そう言えば、お前。部活とかははいんねーの?」

自動販売機の前でバッタリと出会ったオレンジの髪。なんとなく同じベンチに座り、当たり障りのない会話が始まった。部活ねぇ…。と俺は呟く。中学の時は進学に有利だと聞いて入り、性にも合ったため、それなりに熱を入れていたけれど。その分に割かれる時間を思うと悩むところだ。

「黒崎は何に入ってんだ?」
「帰宅部」

つまりは無所属。運動神経がよさげなのに勿体ないと他人事のように思う。

「考え中だな。出来るならバイトとかしてぇし」
「うち禁止だぜ?」
「知ってる。けど、俺は奨学生だから、何か理由をつければ許可おりると思うんだよなぁ…。生活苦とかなんとか」
「理由ねぇ…」

ジュルとパックジュースを飲み干したところで予鈴が鳴る。ここから一番遠くに教室のある黒崎は急いで帰って行った。バタバタと同じように人の流れる中で、やっぱり金はいるよなぁ。と将来の展望へと思考を寄せる。




"あって困るものではない"















20



廊下の端をヨタヨタと歩く姿を見つけると腕は簡単に伸びる。

「お。一護」
「すげぇヨタヨタしてるぞ」

重たそうにしていた教材を有無を言わせず半分以上取り上げる。こいつの場合は手伝おうかとか聞いたら、大丈夫だとしか言わないから手伝うと決めたらこの方法に限る。こうまでしないと素直になれない女子も珍しいんじゃないだろうか。

「すまぬな。実はかなり重たかったのだ、助かった」
「どういたしまして。…教室か?」
「ああ。もうすぐ中間テストが始まるから先生方も忙しいらしい。雑用ばかり押し付けられるよ」
「それ。お前の担任だけじゃね?越智さんはそんな事ねぇけど」
「………やはり、そうか?」

職員室から教室までの間で3人だ。ルキアとすれ違って振り返った奴。これが街に出るともっと多くなるのだから、嫌になる。それでも、俺に持ち得る口実は数少なく、それを利用しないわけにはいかないから。

「お前、明日とか暇?」
「特に予定はないが?」
「じゃあさ、ちょっと買い物に付き合ってくれよ。親父に頼まれて遊子と夏梨のもの買いに行かなきゃなんねぇんだけど、店とか入りづらい」
「そういう事なら喜んで付き合おう」

予想通りの言葉にそっと胸を撫で下ろした。




"君といられればそれでいい"



[19.6.3]