近すぎて遠すぎる



大学から徒歩20分、それが決め手だった。勉強をしに大学へ行くのだからこれ以上の条件はないと言う親父の意見を鵜呑みするようで、なんだか嫌だったが、日々の移動時間が短いというのは魅力だ。そのぶん街から外れているので遊ぶには多少遠出をする必要があったが、田舎すぎることもなく近くにコンビニもレンタルショップもあるのでこれといった不便は感じないし、一人暮らしをするならと遊子にしこまれた自炊の腕を磨くべくスーパーにも結構いっている。出来ればユニットバスは避けたかったのだが、予算の都合上でそこは折り合いをつけた。夕方6時を過ぎると誰もいなくなる管理人室はいかがなものかと思うも、何かあっても自衛する自信は十分。割と快適な一人暮らしライフを現在進行形で送っているところだ。

ガチャリと鍵を回し、真っ暗な室内に明かりを点け、外と殆んど変わらない室内の気温に身を震わせながらエアコンのスイッチを入れれば、控え目な機械音が静かだった部屋になる。住み始めて3年目だが、今だに殺風景な部屋の様子にやはり炬燵くらいは買おうかとも思うが、最初に買っていたならまだしも2年も我慢して今更とも思う。

「あー、早くあったまんねぇかな」

風が吹かないので外よりは暖かいが、寒いものは寒い。提出日の近いレポートを仕上げなければならないが、寒い中ノートを広げる気にも、資料を読む気にもなれず、疲労感にしたがベットへ体を投げ出した。パイプが安っぽい音でギシとなり、布団が優しく体を受け止めてくれる。その感触が一気に眠気を呼び起こし、このまま寝てしまおうかと、ぼんやりした頭で考える。

風呂。洗濯。メールの返信。レポート。明日の準備。………めんどくせ。

考えることすら放棄して、本能のままに眠気に飲まれるべく、うつらうつらとまどろみを迎え入れる。だらしがない、駄目だな、と分かってはいたが、この自分を甘やかしている感覚が気持ちよく体を起こす気にはなれない。ぼんやりとしているうちに、暖房によって部屋が暖まってきて益々寝るのに適した状況が整ってきた。ああ、本当に寝てしまうかも…とまで意識を手放した時、ベットのすぐ横に放り出した鞄の中で、携帯が己の存在を主張した。

「げ」

未だ携帯は鞄の中、着信音も設定を変えていないもの。誰から来たのかなんてわからない筈なのに、何となくわかってしまった。いくつか講義が被っていた、数時間前に顔以外を知った女の子。雰囲気で番号なんか交換するもんじゃないな、と後悔するもすでに遅い。緩慢な動作で鞄を拾い上げ、携帯を取り出すとディズプライに表示された文字にああこんな名前だったなと記憶が刺激される。

「もしもし?」
『あ、もしもし。黒崎君?今、電話大丈夫かな?』
「あーーー、ああ。大丈夫だけど…」
『もしかして、もう寝てた?私、起こしちゃった?だったら、ごめんねー』
「別に構わねぇよ。で、何か用?」
『ううん、別に用はないんだけどね。今日のコンパで黒崎君とかなり話合ったのが、すごく嬉しくて、もっとおしゃべり出来ないかと思って。番号交換してくれて嬉しかったし。友達にも羨ましがられたんだよー。あ、知ってる?私たちの間で黒崎君けっこう人気あるんだから。このモテモテ君めー』
「あ、そー」

用がないならかけてくんな。ごめん、と謝るくらいなら寝かせていおいてくれ。つぅか、一方的に話すんじゃねーよ。こっちには話ないし。番号交換したのはゲットしてくれと煩いやつに根負けただけで、別に俺はいらなかった。しかも、煩いのは一人じゃなかったんだぜ。よかったなー、モテモテちゃんで。

口から出てきたのは、気のない二文字だけだったが、頭の中に浮かんだのは酷い言葉ばかりだった。隠されない好意に、抱く気持が何でこういうものばかりなのかと、自己嫌悪に陥りつつも、急な路線変更をすることは出来ずに携帯の中にシンと沈黙が募った。

『え、と…』
「…」
『黒崎君、今…彼女さんとかいる?』
「いない」
『じゃあ、好きな人とか…?』

否応なく、一人の姿が頭の中に浮かんだ。真っ黒な髪、小さな背に、華奢な体、白い肌に浮かぶ赤い唇、そして大きな紫水晶の瞳。………、出会ったころと何一つ変わらないルキア。

好きなのだろうか、やっぱり。好きか嫌いかと問われれば、間違いなく好きだと回答するが、それは嫌うという選択肢がないからで、もうこの思いはただの好きという単語で片づけられるようなものではない。心から信頼しているし、尊敬しているし、憧れてもいる。友愛もあれば、恋情もあるし、欲だってある。言葉にすれば、友達の言う恋愛とあまり変わらないけれど、そんなものではないと思う。なぜなら、切り離せないのだから。

ルキアなしに俺はいない。あいつとの繋がりがあって、俺がいる。

魂と魂の絆というより、どこかで魂を共有してしまったのではないかと思うくらい、深い思い。大切な人、好きな恋人、愛しい、愛してる。そんな上滑りな言葉とは違って、確かなモノであるのに、確認する言葉のない気持ち。これを好きと言うのなら、他人は気軽に好きという言葉を使い過ぎだ。

「ルキア」
『え』
「ルキアっていうんだ」
『…そっか』
「わりぃ」
『私の携帯番号、もう他の人に教えた?』
「え。いや、まだ…」
『じゃあ、謝らないで!そうじゃないと、私が明日の3限目、出にくくなっちゃうから』
「ああ、悪い」
『ううん、私こそ。他の人に教える前に消してね、私の番号。私も黒崎君の消すから…』
「わかった」
『うん、じゃあね。おやすみ』
「おやすみ…」

また、明日。と言おうとして止めた。プツンと繋がりの切れた音が酷く虚しい気がして、早々に電話帳を呼び出し、携帯の問いかけにYESと答える。真っ白になった画面をワンプッシュで消して、ぽんとベットの上にほうり投げた。

「ルキア」

一護、とはかえってこない。もう、押入れを開けて出てくることもない。

会えなくなったわけでもないし、連絡をとれないこともない。だけど、数年前にあった密接な空間は失われた。だからだろうか、こんなにも姿を見たいと思うのは、ルキアと呼びかけたいのは、そして何だと返してほしいのは………「一護」と言って欲しいのは。

ガラじゃない、頭をガシガシとかいて立ち上がる。シャワーをあびて、さっさと寝てしまおうと決めた。洗濯物もレポートも明日にまわしてやる。いつもと違うことをしているから、こんなにも調子がくるうのだ、いつもはもっと考えなくてすむ。姿が見えなくても、声が聞こえなくても、近くにその存在を感じられるのに、会いたいと願うなんて、電話してみようか考えるなんてアホらしい。やってられない。そこまで考えた。

突然、再び鳴り出した携帯にビクリと肩がふるえる。さっきとは違うコール音。俺の携帯で唯一の、初期設定を変更した番号からかかってきた証。慌てて携帯を持ち上げるも、通話ボタンを押すのに勇気が必要だった。よく分からないけど、顔が火照る。どういう声で話せばいいのだろうと考えた、緊張で震えたりしないだろうか。ああ、そんなことよりも一番声にしたいのは。

「―ルキア?」





映画のお話!………………………映画のお話?
と、多大なる疑問が残るかもしれませんが、ぜろわん的には映画の印象をそのまんま投影したつもりであります(^^)ゞ 一護→ルキアだったんです。「ルキアー!」叫びながら、恋次を置いてった瞬間は「これがオフィシャル…」と、嬉しいと思うより、まず驚いた。感想たくさんあるけど、全部書いたら確実にこのSSより長いよ。でも、これだけは言わさせて下さい。一護がルキアに斬魄刀を突き立てるシーンがすごい好き。その後の抱きしめてるシーンはもっと好き!なんか、優しげだけど全身で囲ってる雰囲気がたまらん!!フィルターのせいかもしれないけど、それでもいい!!!

ちなみに映画のお話その1です。その2があります。やっぱり、姉弟ださないと!だけど、映画だけでなく小説のネタも含むSSになりました。よろしければ、また明日ー。
[21.1.21]