木魂



刀を振るい。倒すべきものを倒し。仲間を弔っていく。
ただ、それだけだ。長い長い年月、同じことを繰り返してきた。ただそれだけを繰り返してきた日々。それは今も変わることはなく、又、変えたいと願うこともなく。同じことを繰り返す。昨日と同じ戦いを繰り返している。昨日と同じ誓いを胸に抱いて使命を果たしているだけだ。そう、昨日に戻ったにすぎない…。

と、そこまで考えてからアシドは刀を振るう事を止めた。いや、止めたという表現は不適切だろう。先ほどまでアシドが刀を振るっていたのは事実であり、無傷で望めば未だ動けるほどの体力を残していることから、自己の意思によって刀を振るうことを止めたのには変わりはなかったが、アシドという青年は必要な時以外に力を誇示するような人間ではない。力を振るうべき相手、虚をせん滅し終えたがゆえにアシドは静かにその刃を鞘へと収めた。

残ったのは身に慣れた静寂のみ。今、アシドの顔の上にあった本能を守るための仮面は失われている。

ルキア…

自ら飛び降りた崖の裂け目に視線を向ける。遙か上に臨むそれは、自然とできたと思うには不自然なほど真横に裂けた夜の砂漠への入り口だ。下から見上げる分にはいつもと変わりがない。先ほど、あの場にいなければ入り口が岩で潰されたなどとは考えもしないだろう。

岩が崩れさる騒音の中で、真っ直ぐに響いた自分の名前が耳に蘇る。
問いかける声はもう聞けない。名を呼ぶ声はもう聞けない。あの声はすでに上へと昇っていってしまったのだから。――後悔が胸をよぎる。

願わくば

メノスグランデの軍勢を足止めするためにこの森に残ったことに後悔はない。彼らがこの森を抜けるべきなのは確かだったのだから。仲間を助けに行くのだと語ったルキアの瞳が語っていた。その仲間がどれだけ大切な存在かという事を。あの瞳はかつての自分の瞳だとアシドは思う。仲間がどれだけ尊いものかということを知っていた。知っていて、守れなかった。みんな逝かせてしまった。

ルキアにあんな辛いことを知って欲しくなどはない。

それと同時に、何故先に進ませた。と、アシドは考える。死神が生きていくのに虚圏は過酷だ。この森も過酷だ。虚夜宮は………死を意味するに近い。ここにいる虚は虚夜宮を崇め、そして何よりも恐れている。

ルキアはそこへ向かったのだ。
そして、そこで死ぬのだろう。

やけに冷静に働く思考にアシド自身が僅かながらも驚いていた。この森で数百年もの間、孤独な戦いを挑み続けているアシドだ。仲間さえいれば、仲間を思う気持ちがあれば、どんな強い相手でも勝てる等とは決して思わない。力が及ばなければ、待ちうけているのは死だけだ。

ルキアの力を認めていないわけではない。ルキアは強い。アジューカスと対峙しても問題ないくらい、この森でアシドと同じように生き抜くことが可能なくらいには。だが、ヴァストローデには及ばない。だから、ルキアは死ぬのだろう。

それが、どうした。
アシドは自分自身に問いかける。死は回避すべきものではあるが、忌むべきものではない。死があるからこそ、死神があり。虚があるのだ。死神としての死は消滅でしかありえないけれど、その覚悟無しに死神は務まらないのだ。力及ぶ限り、人の魂のために刀を振るい続けるのが死神の役目だと信じることに疑いはない。ルキアとて死神だ。消滅の覚悟がないわけではないし、生き残り続ける意志もあった。事実、アシドが刃を向けた時、冷静に刃を交わし、最後まで足掻いて見せた。

ルキアは間違いなく死神。

それならば。

再び、アシドは己に問う。何故、必死になって助ける必要があったのだろうかと。傷一つつくことのないよう庇う必要があったのだろうか。さがれと叫ぶ必要は何所に―――?

もう一度

頭を振る。

忘れてしまった葛藤は森に残ったアシドには荷が重すぎ、思い出すには残酷なほど時がたちすぎていた。長い時を経て築き上げられた精神を崩しさるには、揺れる世界との接触は短すぎた。しかし、無かったことにしてしまうにはルキアとの出会いは余りにも鮮やかだった。

変化を感じ始めた世界でアシドは想う。
自分の名を呼んだ死神を。
きっと自分の名を呼ぶ最後の死神を。

何故か胸が苦しく、辛かった。共に行こうとした入口に背を向けた事は間違いではなかったと断言できるのに悔やまれた。仲間に誓ったこの森から逃れたいわけではなく、変わっているという尸魂界に戻らなくてはと強く感じたわけでもないのに。

頬に一つ暖かいものがつたう。

この気持ちが何というのか思い出せない。先ほど思い出しかけていたものも消えてしまいそうだ。また会う事が出来れば分かるだろうか。その可能性は低いように思うけれど、零でもない。もしも、また会えることが出来たなら。ルキア。その時は…

名を呼ばせてくれ
名を呼んでくれ





アニメみたよー。
というお話。見た目よりもすごく真面目なキャラクターな感じでした、アシドさん。3話でてきたのに会話があんまりなかったのがちょっと残念です。喋ってくれないとキャラが掴み辛いんだ…。尸魂界に戻った話を書いてみたいです。ルキアが尸魂界を案内する話。忘れていたものを君が思い出させてくれる〜的な感じで(笑)
[19.12.15]