はなはな
想いはガーベラに始まって。
先月は百合。
次の週は向日葵。
五日後は薔薇。
十日後はダリア
三日後、つまり一昨日は夏水仙。
そして、今日は。
「今日は鈴蘭ですか?」
頭上にさんさんと輝く太陽は12もある月の中で、最も一日に長く居座るこの月ですら、朽木の前ではその顔を現さないらしい。日にまったく当たっていないかのように、白い肌はどこまでも涼しげだ。
「嫌いか?」
「いいえ。ありがとうございます」
通算五度目。同じ問いに、寸分たがわず同じ答えと同じ笑顔が返ってくる。今日も変化なし、と。もう少し何かがあったほうが俺はやりやすいのだけど、こんな穏やかな空気が嫌いじゃないから困ってしまう。
微笑む君を見ていたい。
「今日は花束なのですね?」
窓越しに花を手渡すと朽木の細い指が少しだけ触れる。その瞬間を息を潜めて待っているだなんて言ったりしたら、同輩には冗談だと思われるだろう。だけど、その触れたところに唇を落したくなるくらい、落すのを躊躇うくらいの愛おしさ。俺の一体何処にこんな気持ちがあったのか不思議でならない。
「ああ。今日は特別だからな」
白い花が白い手へ。
渡って、香って、微笑んで。
夏特有の熱を孕んだ風が、俯く花を揺らして遠くへ消える。随分と強い風だったのに、奪っていったものは何一つなく、更なる熱と花を庇って覆われた朽木の優しさだけを残していった。
身の重さに頭を下げるその花が赤く色付くのではないかと、見つめみるが、白い花は白いまま。変わらずその身を揺らしては、何も鳴らさず静かに止まる。風に晒された朽木の髪がクシャとその表情を変えていた。
「大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
気遣ったのは朽木の体。返ってきたのは花の事。淡いブルーの紙で包まれ、紺のリボンで飾られたミニブーケ。贈ったままの姿で朽木の腕の中に鎮座している。
そっと手を伸ばせば、そこにあるのは初めて触れる黒髪。2・3度サラリと梳いてやれば、あっという間に元通り。一本として指に纏わりつかずに艶やかに香る。そのまま離してしまうのは余りに惜しくて、つまむように先端を捕獲。そこから逃げない朽木の顔はちょっと困って、僅かに染まる。
「檜佐木殿…。そんな事ばかりしていると、本当に誤解されてしまいますよ?」
身から出た錆。覆水盆に返らず。暖簾に腕押し。
この場合どれが正しい?
自分で言ってはオシマイだとは思うけど、手が早くて面倒ごとが嫌な俺が、まったくと言っていいほど手を出さず、たまの休暇に花を買い求め、女の内勤の日を見計らって会いに行くなんて。一体どんな奇跡だ。
それなのに朽木といったら相変わらず遊びだとしか思っていない。
「誤解じゃなければいいのか?」
「申し訳ありませんが、何度も申し上げているとおり、私は遊び相手には不向きですよ」
確かに。軽い気持ちで手を出せるような奴ではない。
全部持っていかれそう。
持って行かれっぱなしなのは性に合わない。だけど、手に入るのなら惜しくはない。本気になるのにこれ以上相応しい女なんていやしない。
「知ってる。だから、今度の休みは俺と二人でどっか行こうぜ」
ガーベラの日以来、口にしてないこの言葉。
あの時は、微笑む朽木と同じくらい涼やかに断られたけれど。
「お断りします。私は不特定多数の女性の中に入る気はありませんので」
「ああ。だから、特定」
「は?」
「お前以外はこの一ヶ月で全部清算してきた」
笑顔の朽木に笑顔で返す。
「何か好物とかあるか?」
「え…。あ、キュウリと白玉が」
「そっか。じゃあ甘味屋でも行くか?俺、美味いところイロイロ知ってるから」
「ちょ…、待ってください!私はまだ行くとは」
「先月の『私に特定して下さるのであれば、喜んで』ってのは嘘?」
ぐ。と言葉を詰まらせて、初めて涼しげではなく焦る表情を見せる。どんな穏やかに佇む水面でも、何かが触れれば波がたつ。魚も住まない様な純粋な湖。その底に咲く花を摘み取りたい。
「じゃあ、約束な。11時頃に迎えに行くから」
捕らえたままの髪に口付けて、窓を離れる。何も言えずにただ俺を見ている事しかできないだろう朽木の視界に、ほんの少しでも入るようギリギリまで角を曲がらないように歩いた。
「おーい。これ頼む」
「はーい。あれ?また来たのかい?」
すっかり顔なじみとなった花屋の店員が俺の姿を認めて笑顔を向ける。
「さっきのミニブーケどうだった?喜ばれたかい?」
「まぁな。ありがとよ、オマケしてくれて」
「いいさ。最近のあんたは好きだからね」
笑顔のままに明るい口調で俺と会話しながら、店員は手際よく花を取り出すと「一本?」と聞いてくる。
「ああ、一本でいい。それにしても最近だけか?前から使ってるお得意様だろ、俺は」
しかも前のほうが高い花を束で買ったりする上客だった筈。
「最近はあんた。花をちゃんと見て選んでいくだろ?前は金だけ渡して、適当につくってくれの一言だったじゃないか。私は何て花に対して失礼で、似合わない奴だと思ってたよ」
「そーだったか?」
「そうだよ。はい、どうぞ」
今日、朽木に贈ったものと同じ小さな白い花が手に収まる。
何となく自然に微笑んでしまって、それを見ていた店員がニヤニヤと笑っているのが気まずくて、さっさと出ようと手早く勘定を済ませようとする。しかし、笑ったままの店員は金を中々うけとろうとはせずに俺を見ている。
「ほらよ」
「ブーケにしてよかったろ?」
「あん?」
「贈ったの、あんたのいい人なんだろ。鈴蘭の花束には相手の幸せを願う意味があるんだよ。毎度!」
ようやく受け取った店員は嬉しそうに、金をエプロンのポケットに仕舞い。俺は意図せずに勝手に込められた、願いの花を見つめた。別の客から声がかかって愛想よく返事をする店員を呼び止め、「それって花言葉ってやつか?」と尋ねると再び店員がニヤと笑って、それでもやっぱり嬉しそうな顔で答える。
「いいや。鈴蘭の花言葉は意識しない美しさ。後は純粋」
もっと聞きたいことはあったが、忙しそうにする店員の邪魔をするわけにはいかず、次の機会でいいかと店を出た。手の中で揺れる小さな白い花が急に欲しくなったのは、朽木によく似合っていたという理由だけじゃないかもしれない。もしかしたら、それだけかもしれない。
似合うはず。
「次は…時期的にコスモスとか」
「はな」の続き。書き手もビックリ純愛ベースの修ルキなんて初めてじゃないか!?
というか、純愛ベースにすると檜佐木は確実に第三者が必要になる!ルキアと別の人の差をどうにかして表現せねばと思ってしまう。
恋次はその点は考えなくていいから楽だな。最近、裏しか書いてないけど。そろそろ恋ルキの純愛を誰かぜろわんに与えて(飢)
※鈴蘭だけは夏咲いてません(苦笑)ぜろわんが使いたかっただけ・・・
[18.7.1]