はな
「よく女に平気な顔して花なんか買って行けるよな、おまえ。恥ずかしいとかねぇの?」
と同輩の一人が言った。
「お前、いっつも違う女連れてるけど、本命とかいるわけ?」
と他の同輩が聞いた。
答えはどちらも『NO』だった。
聞かれた、その時は。
「檜佐木殿は花が似合いますね」
と、誰よりも花が似合う女が言う。
「は?そうか?」
初めて言われた、そんな褒め言葉。…褒め言葉だよな?多分。男に向かって、その発言はどうかと思うけど。
差し出した一輪のガーベラを受け取りながら、朽木は微笑む。
明るい色の洋花はあまりイメージではなかったのだけど、やはりそれも花。朽木の目を十分に楽しませるらしい。礼を言った朽木が、涼しげなガラスの一輪挿しにそれを飾るのを眺める。
「はい。檜佐木殿は華やかですからね。だから、花を贈る様も似合うのでしょう」
花を窓辺に飾り、代わりに手に湯飲みをのせた盆を持った朽木が戻ってくる。
「申し訳ありません。隊長はもう少しでお戻りになるとおもうんですが…」
「別に気をつかわなくていいぜ。息抜きがてらに持ってきた書類だし・・・な、のんびり待たせてもらうさ」
ジジ…と虫の鳴く声が十三番執務室に響く。
うちと違って忙しいのか、執務室には俺と朽木以外は誰もいない。室内に数個おかれた机の上にはやりかけであろうと思われる書類が積まれ、すられた墨が硯を満たしたままになっている。そんな様子を見て取って、俺がここにいるのは邪魔だろうかと思い、出直す事を告げようと視線を正面に向ける。
息が止まった。
決して涼しいとは言えない気温なのに、朽木の横顔は何処までも涼しげで。
凛とした輝きは熱に溶かされること無く、その場に留まる。
それを具現化したような紫色の瞳は、俺が贈ったガーベラに注がれていて。
瞬きすることなく、揺れることなく、一輪の花の姿を見つめ続ける朽木の姿が。
まるで一輪の花そのもの。
綺麗。
瞳を奪われた。
呼吸を奪われた。
心も………奪われた。
ドクンと心臓が高鳴るのを自覚する。目が朽木しか映していない。否、映せない。朽木以外の何を見る必要があるというのだろうか。とてつもなく、どうしようもなく、抗うことすら思いつかずに、惹かれる。
花の蜜に惹かれる蝶のごとく。
それが必然だといわんばかりに。
「?どうかされましたか?」
「いや、別に?」
やっと花からこちらに向けてくれた視線を受け止めながら、心を沈めて平静を装う。
俺が花が似合う男なら、間違って俺の傍によってきてはくれないだろうか?
その目で見つめてはくれないだろうか?
そんな事を思って、俺は用意してきた台詞を吐いた。
「なぁ、今度の休暇の日。俺と二人でどっか行かねぇ?」
「残念」
己の執務室へ戻る道すがら、一人呟く。
笑顔で返された言葉は、その柔らかな表情とは真逆の厳しいもので、おもわず檜佐木も「厳しいな」と苦笑してしまった。
「…珍しいと思ったんだよな」
綺麗な奴だとは思っていた。でも、自分の好みとは少し…いや大幅にかけ離れた体格で、おかしいとは思ったのだけど、いつもの悪い癖だとばかり思っていたのに。軽い興味心。それだけの事。
いつものように一度だけ体を重ねたら気が済むのだろうと。
だから他の女にもしてきたように花を用意して、逢引に誘った。
断られたら、はい、それまで。
同意されたら、飽きるまで。
「さて…と、忙しくなるかな」
掴まった。囚われた。逃れる気はない。
とりあえず、自分と未だ繋がっている女に一人・一人会わなくては…考えただけで頭痛のしそうな行動だが。
それでも、次に朽木に逢引を申し込む際に持っていく花を選ぶ作業よりも大変ではないだろう。
どれが似合うだろう?
全部、似合うんじゃないだろうか?
「平手。何発くらう羽目になるんだか…」
憂鬱の後に待っている、この上なく惹かれる者への期待に胸を満たして、いつの間にか駆け出していた足を止めることがないまま執務室へと戻った。
修ルキ熱にうかされて、異様なスピードで書き上げた「はな」。
久遠様リクエスト「修ルキ」でした!
タイムリーなリクエストをありがとうございます。久遠!!!
ものすっごく書きやすかったです。なんたって今はこのカプが一番熱い。
その反対で一見爽やかな感じの檜佐木ですが、かなり最低男…。
檜佐木がルキアに惚れるパターンその1です(笑)
本編で絡みがない分、惚れた瞬間を考えるのが何より楽しいぜろわんでした。
[18.6.19]