染まる



「あ」
と、ルキアが小さく声を漏らした。
紫の視線の先には白い風船が。
一つ。
青い。青い空に溶け込んで。
やがて消えた。



◇     ◇     ◇     ◇     ◇



「簡単な質問。あいつのどこが好きなんだ?」

偽者の体で、黒髪の死神はそう問うた。
呼吸し、鼓動が鳴り、脈打つ体。
なのに、偽物。
あいつの同じ存在。
あいつと同じ時間を生きる男は、視線をこちらに一度も向けることなく、そう問うた。

「はぁ?」

俺は思わず手にしていたシェイクを落しそうになる。

「違うのか?」

俺よりも少し高い位置にある黒い瞳と合う。本日2回目の出来事だ。

1回目は、特徴的な右目の傷や6と9の刺青もそのままに、そっくり写し取られた義骸に入った修兵が、尸魂界の使いで現世に来たとかで、こんな機会は滅多にないからちょっと案内しろよと 校門でルキアを待ち伏せていた時に、隣にいた俺にもののついでに自己紹介した時のみ。

それから3時間程経過したがコイツの視線はルキアに注がれっぱなしだ。

「違うならそれに越したことはねーんだけどよ」

ニヤリと余裕ありげに笑う。
何だかよく分からないが、癪に障る野郎だ。

「アイツ。色んな奴から好かれるからな」

そう言って再び視線がルキアへと返る。

つられて、俺もルキアを見た。
見慣れた制服。白いシャツに、プリーツの入った短めのスカート、黒いハイソックス、ローファーを履いた足は少し背伸び気味。色とりどりのアイスクリームが並んだガラスケースを覗きこんで5分間。 すでに視線は3往復はしただろう。どれにしようかと迷うたびに肩までの黒髪がサラと揺れた。ワッフルコーンを持って、カウンターの向こうで笑顔を絶やさない店員さん。

あいつはきっと真剣な顔して選んでいるから気付いていないのだろう。コンビニのスイーツコーナーの前での顔がすぐに思い出せる。たかだか数百円の物を選ぶのに、どうしてあんなに 悩めるんだか。

「おい」

「おい、ルキア。早く選べよ、店の人が困ってんだろうが」そう言うつもりだった。そうすれば、あいつは慌てて振り返って「煩い。今、注文するところだったのだ」とか生意気な事を言うに違いな かった。それから一言店の人に謝って、指差しながらアイスクリームを注文して、すくってコーンに載せられる様を見つめて、嬉しそうに戻ってるくるんだ。「どうだ、見ろ。私が選んだのだぞ」と自慢 げに。戻ってくる筈だったんだ、俺の所へ。

だけど届いたのは俺の声ではなくて。

「朽木。俺のために一生懸命になってくれるのは嬉しいけどさ、肝心の俺の事忘れんなよ?」

隣で余裕の顔をして笑う男の声。
振り返ったルキアが一瞬目を丸くして、あまり見せたことの無い類の微笑を見せる。

石のタイルを踏む音が俺の前ではなく、斜め前で止んだ。

「おまたせしました。檜佐木殿。これがアイスクリームです」

ワッフルコーンにのっているのは抹茶と白玉と小豆。ルキアのお気に入りのアイスにトッピング。俺が教えてやった味。それがルキアから修兵へと渡る。

「へぇ。…甘くて、冷たいんだな。氷でもないのに」
「そうなのですよ。一護が言うにはアイスクリームは卵や牛乳などから出来ているらしいのです」
「卵と牛乳?それが何でこんなに冷たくなるんだ?」
「それが分からぬのです。一護も知らないようで…」
「まぁ、美味いからいいけどな。ほら、白玉食え」

プラスチックで作られたスプーンの上には小豆がかかった丸いフォルムの白玉が。それがパクリと小さな口の中に消えた。当然のように。

また修兵と目が合った。
得意げな顔、満足げな笑い。

「馬鹿。てめーが美味いもんを教えてやるってココまで連れてきたんだろうが、てめーで食ってどうするんだよ」
「あ…。そうだった」
「別にいーって。もう一個あるし、アイスも美味い」

緑色のアイスと白い白玉が重なって、修兵の口に運ばれる。ルキアも咥えたスプーンで。

ムカツク。

「ルキア。シェイク飲むか?」
「お、いいのか?」

バニラシェイクにつられてルキアの手が寄ってくる。渡すと躊躇いなくパクとストローを咥える。細くて白い咽が鳴って、甘い液体がルキアの中に取り込まれていった。

…餓鬼だな、俺。

たったそれだけの事で回復される自尊心。優越感。ちっぽけな。
そんな物を競っている場合じゃないってのに。

「ん。朽木ご馳走様」

コーンまで間食した修兵がベンチを立って背伸びをする。

「さて、と。そろそろアッチ戻んなきゃな」
「もうですか?」
「ああ。実は多忙な俺だったりするからな。今日はサンキュー、朽木と黒崎。面白かったぜ、現世案内」
「そりゃ良かった」

そりゃ楽しかっただろう。あんたは質問しまくって殆どルキアの傍から離れなかったんだから。

「見送りましょうか?」
「当然」

ルキアが立ち上がったのを見て、俺も続こうと腰を浮かせる。それを修兵が手で留めた。

「お前は来ないでくれねぇか?今からコレ脱がなきゃいけないんだからよ。人目についちゃマズイ」

くしゃりと髪の毛を触られる。

それが酷く餓鬼扱いされたような気がして気に入らない。それよりも、人目のつかない所にコイツとルキアを二人きりに出来るわけがない。無言で睨む。

「そう睨むなよ。こいつを無理矢理連れて帰ったりするような真似はしないさ。んじゃ、見送り頼むぜ朽木」
「すまぬ、一護。すぐに戻るから」

何も言えず、一人ベンチで俺は二人の背を見送った。






◇     ◇     ◇     ◇     ◇



「連れて帰る…そうだよな」

独り言がすっかり赤く染まった空にすいこまれていく。

あいつはこっちの世界の住人ではない。
分かってる。
あの時、あいつはあちらの世界を選んだじゃないか。

「ホント餓鬼だな」

分かったフリして、理解があるフリして、そうして目を閉じるんだ。
深入りしないように・と。
道を閉ざすように。
希望を見ないように。

「安い独占欲はあるくせによ」
「?何があるのだ?」
「!?ルキアっ?」

目を開けると驚いた顔をしたルキアがいつの間にかいた。
隣にあの死神の姿はない。帰ったのだから、当たり前だろう。
ルキアは…戻ってきたのか。

「何をそんなに驚くのだ…。ほら、早く帰るぞ。遊子法典の時間に間に合わなくなってしまう」

向けられた背を、ほうってあった鞄をひっつかんで追う。隣に並ぶと先ほどまでは無かった、前髪につけられた兎のヘアピンに目がいった。

「何だ?ソレ」
「これか?」

兎のヘアピンではなく、鞄の他に追加されていた袋を自慢げにルキアが見せる。それも先ほどまでは無かったものだ。

「アイスだ。食べたくなってな!皆の分もちゃんと買ったのだぞ?」

誇らしげにルキアが袋を掲げる。

「親父殿には抹茶。遊子にはストロベリー。夏梨にはミントチョコ。お前にはチョコレートだ」

得意げにうちの奴らの好きな味を言いあげていく。夏までは知りようの無かった情報。

「んで、お前は小豆か?」

抹茶の次にルキアが食べる味。

「よく分かったな!」

笑顔でルキアが応える。
二人並んで家を目指す。
今日のご飯は何だろうとか、この前食べたアレは美味かったとか、親父のあの話が面白かったとか、遊子と一緒に遊んだとか、夏梨にサッカーと教えてもらったとか。楽しそうにルキアが話すのを聞きながら帰った。

望むもうと、望むまいと。
ルキアは今、こっちにいて。
俺の傍にいて。
俺の世界を知って。
共有している。
出合った時から、ルキアはこちらの世界に関わっている。
無かったことには出来ない。

「悩むだけ、馬鹿か」
「は?」

変な顔をしてこちらを見上げるルキアの鼻を摘む。

「貴様!何をするのだ」
「別に?まぁ、あえて言うなら。覚悟しとけよっていう意思表示?」
「はぁ?」

ご機嫌だったり、怒ったり、不思議がったり、忙しい奴。
それもいい所だと俺は知ってる。
そしてこれからも知っていく。
それがいつまでかは分からないけれど…。
けれど、まだそのいつかは来ていない。
未来は真っ白のままだ。
次にこいつが何を選ぶかなんてまだ決まっちゃいないだろう。

「明日は映画でも見に行くか?」
「む。何だ、その映画とやらは」

その興味深々な瞳をいつか俺だけに向けてくれるように、頑張るしか出来ないのだし





百合様リクエスト「一ルキ修」の一護verをお届けにやってまいりました。
この3人が同じ時間軸で話してる時が思いつかなかったもので捏造。
破面編あたりになるですが、なんでか普通に学校生活を送ってる一護とルキア。でも、補助は尸魂界から受けてます。意味不明。
一護が檜佐木を何て呼ぶか分かんなくて困った…。でも野郎はすべて名前を呼び捨てにしてるよーな気がしたので「修兵」に。兄様も呼び捨てなのだから、きっと大丈夫!
…なんだかうちのサイトは人様のサイトではあまり見ない(てか全然?)三角関係が増えていっているような気がします。という事で(ドユコト?)檜佐木verも読んでやっていただければ幸いです。
[18.6.18]