落ちる
「あ」
と、朽木が小さく声を漏らした。
その視線の先には風船が一つ浮かんでいた。
白色の。
高く、高く飛び続けるその風船は。
やがて飛ぶのを諦めて、青い海へと呑み込まれていくのだろう。
「簡単な質問。あいつのどこが好きなんだ?」
そう聞くとオレンジ色の少年は明らかに狼狽の色をみせた。
「はぁ?」
そう聞き返す時点で、答えはほぼ決まっているようなものだという事になんで気が付かないのだろうか。不快さを隠しもしないその声。
「違うのか?」
分かってるが、言ってみる。さて、コイツはどういう反応にでるのか。
一緒に行動してから3時間。朽木に近寄るたび、触れるたびに飛んでくる霊圧がどんな意味を含んでいるのなんて分かりきっている。
多分、黒崎は無意識なんだろう。その青さは嫌いじゃないが…。
生憎と朽木の隣は指定席じゃねぇんだよ。感情のコントロールも出来ない餓鬼が。
「違うならそれに越したことはねーんだけどよ」
怒りを含んだブラウンの目。
素直だな。
素直じゃねぇけど。
「アイツ。色んな奴から好かれるからな」
まったく俺の可愛い恋人(予定)は、何人の男の心を掴めば気が済むのやら。尸魂界だけでは飽き足らず、本来ならば言葉を交わすこともない人間まで惑わせる。
ほら見ろよ。純朴な少年。何を勘違いしているか知らないが、あいつはお前のじゃないんだぜ?
しっかり見とけよ、と視線を促す。
見慣れない姿の朽木はずいぶんと可愛い。
死覇装を纏っている時のような凛とした雰囲気がないわけではないが、少ないというか…。そう柔らかいと言うのが妥当か。随分と近寄りやすく声をかけやすい。 話すテンポもアクセントも感情に溢れていて、すぐに夢中になる。見た目のままの少女のようだ。
ほら、今も夢中になってる。
珍しくて美味いものを食いたいと言った俺の要望を叶えるために、ガラスケースにくっついて悩んでいる。すぐ傍によっていって、俺のための表情を眺めていたい所だが、 「駄目です、お楽しみです」と、可愛く笑われたら従うしかない。男とベンチに並んで座ってもあんまり楽しくないんだけどな。
「おーい、朽木。俺のために一生懸命になってくれるのは嬉しいけどさ、肝心の俺の事忘れんなよ?」
放っておいたら、いつまで悩んでいるかわかったものじゃなさそうだ。俺のための時間にチャチャをいれるなんて真似はあまりしたくないが、時間も限られている。店員も待ってたし、後姿を堪能するのもここらが潮時だろう。タタタと何かを手に持った朽木が駆けて来て、笑顔でそれを俺に差し出した。
「おまたせしました。檜佐木殿。これがアイスクリームです」
当然だが、見た事の無い食べ物。それに見慣れた物が載っていた。
世界が変わっても好物は変わらないんだな。と、そんな当たり前の事に安心する。
緑色の柔らかいものを匙ですくって、口に運ぶ。さっき食ったハンバーガーといい、こちらは変な形の食い物が多くないか?
「へぇ。…甘くて、冷たいんだな。氷でもないのに」
「そうなのですよ。一護が言うにはアイスクリームは卵や牛乳などから出来ているらしいのです」
「卵と牛乳?それが何でこんなに冷たくなるんだ?」
「それが分からぬのです。一護も知らないようで…」
またかよ。
内心ため息が出る。
もう数え切れなくなるほど聞いたその名前。俺がこちらの事について聞くたびに、その名前が出てくる。さしずめ朽木に言わせたら、こちらは現世でなく一護の世界になってしまのではないだろうか。 まるで俺が知っている朽木ではないように無邪気に微笑んで。鮮やかに朽木の世界に入り込んだ名前を誇らしげに語る姿。朽木を挟んだ向こう側で不機嫌にしている餓鬼は気付いていないようだが。
「まぁ、美味いからいいけどな。ほら、白玉食え」
黒崎が見ているのを承知でその口元に差し出す。
予想通りに朽木の唇が俺の指に近寄って、予想通りに黒崎の眉間の皺が一瞬深くなった。
こちらではお前だけの特権だったんだろ?
お生憎様。
「馬鹿。てめーが美味いもんを教えてやるってココまで連れてきたんだろうが、てめーで食ってどうするんだよ」
「あ…。そうだった」
「別にいーって。もう一個あるし、アイスも美味い」
あっちになくて、こっちにある、朽木が好きな物。
うん。俺も気に入った。
「ルキア。シェイク飲むか?」
「お、いいのか?」
お返しとばかりに見せ付けられる二人の仲。
なかなかやるじゃないか、少年。
そうやってしっかりてめーの感情を把握しておけ。
俺のために、つけ入りやすい隙をシッカリと作っておけよ?
「ん。朽木ご馳走様」
アイスクリームとやらを入れる容器だと思っていたものまで食って、俺は背伸びをしながら立ち上がる。どうも義骸というものは窮屈に感じる。
「さて、と。そろそろアッチ戻んなきゃな」
「もうですか?」
「ああ。実は多忙な俺だったりするからな。今日はサンキュー、朽木と黒崎。面白かったぜ、現世案内」
「そりゃ良かった」
朽木の少し残念そうな口調と、黒崎の面白くなさげな口調。
素直な少年を丸め込むのは少し心が痛まなくもないけれど。
「見送りましょうか?」
「当然」
黒崎が朽木に続いて立ち上がろうとするのを留める
「お前は来ないでくれねぇか?今からコレ脱がなきゃいけないんだからよ。人目についちゃマズイ」
子供にするように、黒崎の頭を撫でて暗にオレンジ色の髪を示す。
無言で睨んでくる様が分かりやすくていい。
感じてるんだろ?俺達とお前の差を。
「そう睨むなよ。こいつを無理矢理連れて帰ったりするような真似はしないさ。んじゃ、見送り頼むぜ朽木」
「すまぬ、一護。すぐに戻るから」
わずかに揺れた背後の霊圧に、朽木に気付かれないように笑った。
「ここらでいいか」
ビルとビルの隙間に入って、完全に人目がないのを確認してから義骸を脱ぐ。随分と体が軽くなった。
「じゃ、またな。今度はあっちで会おうぜ、朽木。こっちだと俺は使える金ねぇし」
「檜佐木殿はあちらでも持っていらっしゃらないでしょう?恋次がたかられるとぼやいておりましたよ」
「お前に贈り物をする金はあるぜ?」
懐からさっき買っておいた物を取り出して、朽木の髪につける。
「?」
「これ」
パッケージに残っている2本中の1本を見せる。白い兎が軽やかに跳ねる、安物のヘアピン。今日、寄った雑貨屋でルキアが一瞬熱い視線を送ったのを見逃すような俺じゃない。
「え。お金はどうされたのですか!?」
「学校に行く前に拾ったのを、ちょっとな。お前ら見ている限り大した額じゃなさそうだったし」
「でも…」
「代わりに義骸の指に嵌ってた飾りを一つ置いてきたから、それでチャラになんだろ。貰っとけよ、女に奢られっぱなしなんてカッコ悪い真似を俺にさせるつもりか?」
大げさにため息をついて見せれば、朽木が笑う。
アイツに聞いてみた質問の答えではないけれど、こういう所も好きだ。
「はい。…ありがとうございます。檜佐木殿」
「どういたしまして」
解錠。と一声あげれば、開かれる扉。
あちら側に俺達の生きる世界がある。
「寄ってくか?」
「任務を終えていませんから」
ひらりと地獄蝶が一羽だけ、俺の目の前で舞う。
死覇装の俺と、制服の朽木。
扉をくぐるのは俺だけで。
ここで寂しいと言ってみれば、少しは気を引けるのだろうけど。
「さっさと終えて戻って来いよ。待ってるぜ」
「はい。私に出来る限り、努力したいと思っていますよ」
そう笑って告げる言葉が、義骸を窮屈とも思わなくなっただろう朽木の本心であることを祈りながら。この後、オレンジ色の少年を映すであろう瞳に別れを告げた。
百合様リクエスト「一ルキ修」の檜佐木verをお届けにやってまいりました。
一護verと檜佐木verのどちらからご覧になっているかは分からないのですが、こちらが後というのを前提で言い訳をさせていただきたい。
お気づきの方がいらっしゃるでしょうか?クラップでは何度も書いた一ルキが駄文では一度もかかれてい無い事を!…ぜろわんは一ルキ書くのが苦手です。なぜなら青臭いくせに男前って 何なのさあんた状態に陥るから。イメージ固定しにくいんですよ一護は。
という事で、内心は五十歩百歩な一護と檜佐木ですが、態度と余裕は年の功で檜佐木が上みたいな…。
そんな感じに…。
なってるといいなぁー。
百合様。リクエストありがとうございました!ご希望の応えられてるといいのですが…。
[18.6.18]