川面
『息苦しい』
そう感じて、檜佐木は窓の向こうの景色に視線を彷徨わせた。
太陽の日差しが柔らかくなり始めた街には人が集まっていて、活気がある。身を着物で包んだ人々が店先で止まっては去っていき、
店は歩く人々を少しでも長く引きとめようと様々な趣向を凝らす。
その騒めく世界を静かな世界から見つめる。
「何か面白いもでもあるの?修」
甘い声がかかる。
視線を正面に戻すと、女が楽しげに瞳を輝かせていた。
「別に。いつもと同じだ」
「あら、そう?」
茶を飲む女の白い咽がコクリと動いた。その咽に自然と手が伸びる。波打つ栗色の髪が指に絡みついた。
檜佐木が死覇装を纏っているのに対して、女は死覇装ではない。
当たり前だ。
女は死神ではない。
夜の街で出合って、そのまま関係を持ち続けている。お互い名と職業以外を明かさずに。
「昼から私に会いに来てくれるなんて、嬉しいわ」
碧の瞳が悪戯に輝いた。
綺麗な顔に妖艶な香りの華が咲く。
いい女。
そう、思う。
しかし、そこから先がない。
もっと見たいと思わない。知りたいと思わない。自分を見て欲しいと思わない。触れたいと思わない。口付けたいと思わない。抱きたい、と思わない。
呼吸ができない。
軽く触れた赤い唇に酸素が奪われた気がした。
「どうしたの?」
楽しげに笑う口元を見ていられなくなって、再び窓の外に視線を戻した。
ガラスの向こう側は相変わらず、人々が様々な色の着物を纏って歩いている。
まるで魚のように。
(魚は俺か)
息ができなくて、苦しくて、酸素を求めて足掻いている。
求めるものはここにはない。
「悪ぃ。やっぱ帰るわ、俺」
「そう?」
「あぁ」
「次は?」
「ない」
言い切った檜佐木の言葉に女の瞳に始めて深さが映った。
「外に澄んだ水は無いわ」
「でも、ココに光はねぇだろ。乾いても、掴みに行こうかと思ってよ」
「そう。…残念ね」
「このまま、お前に食べられるのも悪くないと思ったんだけどな…。でも、俺はどっちかっつーと捕食者だったの思い出したんだよ」
女が微笑を零して、窓を開ける。
ただ差し込んで煌いていただけの光が肌を刺した。
「それで?狼に戻った男は何を食べにいくのかしら?」
「兎。珍しい、瞳が紫のヤツ」
ニヤリと笑って、女が開けた窓から体を外に放り出した。
久々に体に当たる風が心地よいと感じる。
背伸びを一つすると、檜佐木は後ろを振り向くことなく歩き始めた。
ごめんなさい。どうでもよい超自己満足駄文です。
そんで、どうでもよいのですが女の人は翡翠(かわせみ)って名前でした。
出せなかった…。