何となく見てしまった、何でもないことが、頭の隅から離れない。

それは、いつも私に触れる大きな手が、私に触れる時よりも少しだけ余所余所しく、でも、十分な親しみを持って同僚に触れていたこと。それは、よく見かける光景で、それまでにも見てきた光景で、容易く許容できていたことで、その時にだけ恋次の中に特別な意味があったわけでもないのだけど。

私が会話の外にいて、中庭を挟んだ向こう側で、そんなもの見てしまったから。ふと昔の感情が蘇ったのだろう。統学院の時、同じ組の者と仲良くしている恋次を見た時に似ているから。声…、否、視線すらも交わさず、ただ背を追っただけのあの時が、あまりにも長かったから。

過去へのタイムスリップは、目ざとく私の姿を見つけ、「おーい、ルキア」と呼ぶ声によって、すぐにここへと連れ戻された。私はそれに笑顔で応え、軽口を言った。昔の感情は、今の感情ではないから、それは容易い行動で、心温まるものだ。揺れた感情はすぐに安定を取りも出した。…それでも、刺は残った。血が流れていないから、忘れ去っていただけで、それはずっと刺さっていたのだ。鈍い痛みと共に。



◇     ◇     ◇     ◇     ◇



「…やはり、変だろうか」

心中で繰り返した疑問を、独り言にしてみても変化は訪れず、私は手中を見つめた。そこには、調停・安定・永遠等の象徴である円の形をしたものが収まっている。

小さな円だ。小さくて良いと思う。この大きさでないと実用として向かないというだけの理由ではなく、自分が必要としている物がこれくらいの大きさだと感じているから。大きくなくていい、小さくていい。今の自分に必要なのは、きっとこれくらいのもの。

「綺麗だ」

滑らかなシルバーが綺麗に輝き、中央の控えめな赤に演出を加えている。
あの手に、これが輝いていれば…。

「邪魔になるやもしれぬな…」

それは買うか、買わないか、悩んでいた時にも思いついた危惧。刀を握る手には、不要なものであろう。刀を振るうだけが死神でないとはいえ、刀を振るう事が重要な意味を占めている死神だ。本来、好むべきものではないのかもしれない。

でも。それでも。あの手にこれを―――。

拒否、されたらどうしようか。いらないと言われたら、どうすればいいのか。自分用に転用するにはあまりにもサイズが違いすぎて不可能だ。他の人へあげるのは論外だ。これは奴のものだから。

と、その前にこれを何と言って渡せばいいのだろうか。渡さなければ、断られようもない。何と言葉を添えて贈ろうか。

「私以外に触れるな。とか?」
―いやいや、それは確実に不可能だ。それに、そこまで極端な事は考えていない。全否定は出来ないけれど、でも、そんなのは僅かな気持ちにしかすぎない。

「お前は私のものだ。…か?」
―それだったらどんなにいいか。だけど、恋次は恋次のものだ。私のものではない。全部くれると言ってもらった。それで十分。

「幸せにする。は、どうだろう?」
―なかなか良い…ように思うが、いささか自信を持てないのが情けない。こんな状態で言葉を告げて、果たして説得力があるものか。非常に疑問が残るところだ。

もう一度、手の中を見つめる。
キラリと赤が輝いた。

「………ふ。何だ、ぴったりなのがあるではないか」

これなら、もう過去も振り返らない。刺も傷まない。
立ち上がって、目立つ頭を探し始める。今日が終わるまでに捕まえて、左手の薬指に嵌めてしまわなくてはならないのだから。内側に刻んだ名と共に贈ろう。この言葉で。


『いつも私に触れていてくれ』





恋次さんハピバSSのネタだったもの。ここまで遅れちゃあ、さすがに祝いSSだとは言い切れない。
現世風のプロポーズを実行するルキアさん。恋次が左手の薬指の意味を知ってるか、知らないかはご想像にお任せします。ただ、知ってたら、嬉しい反面、複雑な気持ちでモヤモヤしちゃうのは確実でしょう。
[19.10.2]