10cm
「…どうしたのだ、その格好は」
騒ぎもせず、慌てもせずに。ルキアはただただ、その大きな瞳を丸くしただけだった。
人間…、いや人間ではなく死神のだが、ややこしくなるだけなのでこの際その定義は横に置いておいて。とりあえず人間は驚きすぎると逆に思考が冷静になるものだという事を知る。否、驚きすぎてどうしていいだけか分からないだけかもしれない。
「分からねぇ」
「分からないって、お前…。何の原因も無くて、そんな姿になる筈はないだろう?」
余りの事過ぎて近寄れなかったが、本人がケロリとし過ぎている。いつものように衿を掴みあげたい衝動に駆られる。しかし、それは出来ない。とりあえず、今夜のご飯と成り得る食材を放り出し、胡坐をかいて座布団の上に座る恋次の傍へ注意を払いながら寄った。
………潰さないように。
「…なんだかリアル過ぎて気持ち悪い玩具のようだな」
そう言うと全長10pの恋次が「適当な事言うんじゃねぇよ」と不機嫌面になった。
10p。そう丁度それくらいのサイズなのだ、今の恋次は。何故か。
傍に寄るとますます恋次の小ささが分かる。普段ならば、恋次が座ると少し小さく感じるくらいの座布団は布の池の様だ。この小さな人物から霊圧を感じなければ、本人が恋次だと言った所で信じられないかもしれない。
「朝起きたらこうなってたんだ。起きたのだって、布団に押しつぶされそうになったからだぜ?ここまで出てくんのにも苦労したんだからな」
「おお、それはすまぬ」
ひょいと手を伸ばし、恋次を拾うと抵抗無く掌の上に乗った。両手を添えて目線の高さまで覗き込む。私が起きた時は普通の大きさだったため、一層不思議である。
10p恋次は本当に恋次を10pに縮めただけのようで、小さいくせに妙に逞しい体が何だか今は滑稽に見えた。見慣れてくると、これはこれで愛嬌があってかわいいかもしれない。
「ふふ」
「何か楽しそうだなぁ、おい」
「いや。普段、見下ろされてばかりいるからな。やけに新鮮な気分だし………、今なら私のほうが力も強いだろうからな」
指先で恋次を突いてみると、普段は全力をだしてもビクともしない体がグラリと揺れた。
………えい。
「てめ…」
とー。
「ちょ…ちょっと待っ」
ほれ。
「待てっ!つーか止めっ」
♪
「いい加減にしろっ!!!」
私の手の端で恋次が必死になって叫ぶ。突くたびにころころと転がる恋次は文句なしに楽しく、私は笑いを抑えながら謝る。私が真剣に謝っていないのがわかるのだろう。不機嫌面のままフィと恋次はそっぽを向いただけで黙り込んでしまった。
しかし、まぁ…どうしたものだろうか。これは。六番隊の副隊長がこれではちょっと…いや、かなりの問題があるだろう。身長のほかには異常は見られぬようだし、回復鬼道でもかけてみるか?体内の霊子運動を活発化させれば何ら変化を見せるかも知れぬ。いや、しかし、原因が分からないのに危険か。恋次は嫌がるだろうが、これは明日にでも4番隊に見てもらって、それが駄目なら技術開発局にでも…。
思考にふけっていると目の前から「ぐぅ」という音が聞こえた。
「………そのサイズでも腹が減るのか?」
「今日は何も食ってねぇんだ」
いまだ視線は合わせないまま、だけどいくらか棘が抜けた声で返事が返ってきた。考えてみたら、この姿で外に出られるわけも、自分で調理する事も出来るわけはない。気が付かなくて悪かったと思いながら、「待っていろ」と声をかけ机の上に恋次を置く。袖を留めながら作る量を考える。果たして、いつものとおりに作ってよいものだろうか?
「ご馳走さん」
私の危惧を見事に跳ね飛ばし、いつもの量の夕飯を平らげた恋次はお猪口に入れたお茶を飲み干した。お猪口といえども、湯飲みには大きすぎて両手を使っているが零す事無く綺麗に飲み干すとおかわりを要求する。いくらなんでも急須は持てないので、ついでやると再び綺麗に飲み干した。
「よく食べたものだな…」
「時間はかかっちまったけどな」
私の倍以上のスピードで食事をする恋次が、今日は私よりも倍の時間をかけて食事を終えた。どこに入ったか不明なほどの量の食事を。
「食べすぎではないのか?腹を壊すぞ」
「大丈夫じゃねぇか?別に変な感じはしないぜ」
恐らく片付けようとしてくれているのだろう。自分よりも大きな皿を両手で掴み、恋次がズルズルとこちらに引っ張ってきている。重そうな様子は見せないが、さすがに歩みは遅い。その様子が微笑ましくて、皿に手を伸ばした。
「いいよ。それくらい、私がやる」
「…悪い」
ここにきて初めて恋次が落ち込んだ表情を見せた。それはそうだ。いきなり縮んでしまって動揺しない訳が無い。私がいない間に、恋次だって色々と考えた筈だ。きっと私が動揺しないように、あんなケロリとした態度をとっていたのだ。少しだけ申し訳なく思う。食器を片付けるために立ち上がりかけていた膝を再び下ろし、恋次と向かい合う。
「なぁ、恋次。明日、四番隊に行ってみないか?お前は原因が何か分からないと言ったが、何にもなく縮むわけが無い。行って見て貰おう。そのままの姿では何かと困るだろう?」
「そうだなぁ…」
てっきり嫌がると思っていたのだが、ちょっと渋面を作っただけで恋次はコクンと頷いた。
「このサイズじゃ、お前に―――(伏字)―――な事や、―――(お見せできません)―――な事をした上、―――(自粛)―――を出来ねぇもんなぇ…って、どぅわぁぁああああ!」
ダンッと振り下ろした拳を見事な反射神経で恋次が避ける。
「今、本気だったろ!?」
「当たり前だっ!この変態っ!!」
違うだろう!?
困るところが絶対に違うだろう!!!
赤くなった顔を見られたくなくて、食器を片付けに立つ。心配してやったのに、あんな事しか考えられないのか、あの馬鹿はっ。というか、あんな事しか考えてないのかっ。――――って何だ!私はそんな事、絶対にしないぞ、馬鹿っ!!………でも、全部出来なくなったら、困る、と思うけど。
「!!」
自分の思考すらも危うく脱線しかけたのに気が付いて頭を振る。違う、そういう問題ではないのだった。とにかく原因を突き止めて解決しなければ、恋次は死神でいられなくなってしまう。そうなると、この瀞霊廷内に住まわせてもらえなくなるかもしれない。それは由々しき問題だ。
食器を洗い終え、風呂の支度をする。恋次は…入れてやれねば、うっかり排水溝に流れていってしまうかもしれない。副隊長が裸で溺死体となって排水処理場に発見されるのはマズイ。先ほどの件があったばかりで、言い出しにくかったのだが「一緒に風呂に入るか?」と聞くと断固として拒否された。その代わりに洗面器に湯を張ってきてくれと頼まれたので、ついでに手ぬぐいを二枚用意する。体を拭く用と着替えだ。恋次と一緒に縮んでしまった夜着以外、今の恋次に合う衣服はないから。
「溺れるなよ?」
「そこまで縮んでねぇよ」
私が部屋を出て行くまで、湯を使う様子を見せないから早々に部屋を出ることにした。本当なら傍に付いていたいのだが、それは望まれていないようなので止めた。湯に浸かりながら、誰に見てもらうのがいいだろうかと考える。
今から伝令神機で花太郎に連絡をして、事前に事情を伝えておこうか。いや、前例がある症状ならばそれで足るだろうが、前例がなければ花太郎は上に相談しなければならなくなる。そうすると恋次の今の状況を知る人数が悪戯に増えるだけだ。やはり、ここは副隊長の勇音殿か、いっそ卯の花隊長に相談すべきだろう。勇音殿は清音殿の姉上でいらっしゃるのだから、話を伝えやすい…。駄目だ。清音殿には喋れぬ。花太郎に相談した場合の比ではない人数に話が広がってしまう。では、卯の花隊長に直接お話を聞いていただくしかない。私の申し出だけで、お会いしてくださるだろうか?
あまり好ましくないが、いざとなったら朽木の名を使うことも考慮にいれて湯から上がる。茶の間ではすでに湯から上がり、手ぬぐいを体に巻きつけ退屈そうにしている恋次が待っていた。
「寝る場所はどうする?座布団の上に手ぬぐいをひくだけで構わぬか?」
「お前と一緒に布団で寝る!」
………は?
「やめてくれ。朝起きたら夫を潰していました等と、私は涙ながらに語りたくは無いぞ」
「お前に潰されるほど俺は鈍くねぇよ」
「いや、しかし…。布団に潰されるかと思ったんだろう?」
「お前となら大丈夫だ」
「意味がわからん」
「とにかく、一緒に寝る」
ガンとして譲らない恋次にため息を付きつつ、再び掌に載せた。これは、今夜は絶対に寝返りをうてない。緊張した睡眠を覚悟しながら恋次を枕の傍に置いてから、布団に入った。私が横になった所で恋次が傍によってきて、額にくすぐったい口付けをする。それは、私が眠れない時に恋次にかけてもらうおまじないで、小さくなっても恋次は恋次なのだなと思った。
「私からは出来ないから。もう一度、口付けてくれ」
「了解」
今度はちゃっかり唇に。もう一度、くすぐったい口付けをしてから恋次も横になる。いつも見ている光景なのに、いつもとは違った光景で。私は早く恋次が元に戻ればいいと願いながら眠りに付いた。
「けものみみ」に続いてバトンからv
ちっさいのも可愛いけれど、やっぱり普通の大きさがいいよね!は言うまでもないのですが、書いちゃった。恋次は一晩で戻り、宣言どおり――――をやります。品がない話でごめんなさい?