日和



ガタガタと扉を揺らす木枯らしが吹く外の景色は、見ているだけでも凍えてしまいそうで俺は煙草を買いに行くか否かをしばし悩んだ。寒さに耐えて歩くこと15分。買い物に所有すること2・3分。再び寒さに耐えて歩くこと15分。それだけの時間の苦しみを味わってでも欲しいかと言われれば、そうでもない。

癖になると教えられた煙草の味は、俺にとってそこまで魅力的な代物ではなく。日に一本消費するかどうかといったところ。忙しい時であれば、すっかりその存在を忘れ去る事ができるくらいだ。暇な時、何となく口寂しいから口に銜えているだけで、そこに煙草と並べて甘味が置いてあれば迷わずそちらを取る自信がある。

「しかしなー」

このままボーっと囲炉裏にあたっているだけというのも退屈だ。日頃、殆ど隊舎に詰めているせいで自分の部屋に娯楽は少ないし、それに比例して所有物も少ない。よって、普段から部屋は閑散とした感じで、掃除の必要性もあまりなかったりする。今なんて特に。掃除する必要も、溜めがちになってしまう洗濯物すらない。囲炉裏の傍でスヤスヤ眠る人物のお陰で。

「ったく。休暇に人のうちに押しかけて来たかと思ったらこれだもんなぁ」

暢気な事この上ない。お陰でこちらは滅多にない朝寝坊のチャンスを逃してしまった。挙句、朝から冷たい水に散々触るはめに陥った。今朝、唐突に訪れてコイツが人をたたき起こした後に始めた事と言ったら、空気の入れ替えに掃除だった。しかし、予想以上に掃除がすぐに終わってしまったのだろう。まだ燻ぶるやる気に目をつけられたのが洗濯物だった。

洗濯盥と洗濯板を引っ張ってきた時は、本当に慌てたぜ。「もう少し暖かい日にやる!」という主張は、「そうやってずるずる溜めるのだ!」という反論に負けて決して通らなかった。仕方なく覚悟を決め、俺は盥と板を奪い取り自分で洗濯する事にした。長年、自分の事は自分でやってきた習慣が、女に褌を洗ってもらうことに必死に抵抗した結果だ。そのお陰もあって食卓に並んだ朝食は嬉しかったけど。

俺の知らないうちに、冷え切っていた部屋に暖がさされ、空気を入れ替えたばかりの部屋に美味そうな香。この部屋に移ってから…、いやそのずっと前からか。もしかしたら、初めてかもしれない。多分、普通と称される光景。心底、いいな。と感じた。

何しろ戌吊の時は冬にまともな暖が取れた記憶はないし、もちろん暖かい飯なんてのも年を通して1度ありつけるかどうかだった。統学院の時は暖かい飯に毎日ありつけて、めちゃくちゃ感動したっけ。でも、食うのは食堂だったし。寮だったから、誰かが部屋で待っていて「お帰り」なんて言葉をかけることはなかった。死神を出てからなんて尚更だったような気がする。食事は食堂か外食。家に戻ることも珍しくて、最近になって統学院時代の荷解きをした荷物もあるくらいだ。随分、懐かしいものもあって自分の物持ちに驚いた。

「それもお前が押入れから見つけてきたんだよな…」

押入れから引っ張り出してきた時の得意げな表情。昔はよく見ていた筈だ。前ばかりを見て進む俺の袖を引き…いや、殆ど実力行使だったような気がする。昔からルキアは手が早い上、口がまわる奴だった。そうやっていつも俺にブレーキをかけ、後ろを見ることを気付かせてくれていた。

「…ほんと変わってねー」

手を伸ばしてサラリと崩れる黒髪を撫でた。ようやく戻ってきたという思いが胸を占める。昔、当たり前だと思っていたものがココにある幸せと。昔、当たり前だと思っていた分こんな幸せがあるのだと知る驚き。随分と遠回りをしたなんて後悔がないわけではないが、追い出してしまえ。それはもう十分だ。今、必要なのは二度と離さないという覚悟だけ。それは心臓の一番深い場所に根付いている。

(起きるなよ)

先ほどまでとは真逆の事を考えて、そっと唇を寄せた。最近、重ねることを知ったばかりのそこへ軽く触れる。願いは叶って大きな瞳が俺の顔を映すことはなかった。

「厚着していかなきゃな」

口寂しさはとびっきりの甘さで消えた。

満たされたら、あの”いいな”という気持ちをどうやったら俺からもやる事が出来るだろう。と思った。とりあえず、目が覚め時に好物があったら嬉しい筈だ。筆を手に取り、煙草屋よりも歩いて5分先にある甘味屋に行ってくることを告げる。羽織に腕を通すときに、朝食時には使われなかった食材の紙袋が目に入った。帰った時、また暖かい飯ができていたらいいなと思う。扉を開けると冷たい風が吹き込み、慌てて扉を閉めた。

ああ、やっぱり寒い。
二人で暖かさを分け合って過ごすにはピッタリの日だ。





一人暮らしの皆様。人に下着を洗ってもらうのって抵抗ないですか?私だけ?
そんなこんなで(?)恋次独白の恋ルキです。甘いでしょう?ほのぼのでしょう?ルキア始終寝てますが。

大変ご迷惑でしょうが「日和」はアンケートにて恋ルキをもっとー!に投票してくださった方々へ捧げたいと思います。コメントがありませんでしたので、私の好き勝手なシチュエーションになってしまいました。望まれたものとは違うかもしれませんが目を瞑ってください。ありがとうございました!
[18.11.27]