桜導



幾月、幾年、その横顔を見つめ続けただろうか?
考えるのも馬鹿らしいくらい、長い時間、俺はお前を見てきた。
その瞳に俺が映るのを願って。



◇     ◇     ◇     ◇     ◇



間がさしたとしかいいようがねぇ。
これまでに、今まで以上のチャンスなんかいくらでもあった。その度に俺は我慢してきたんだ。だが、桜の木の下で眠っているお前の唇に花びらが舞い降りたのを見た時、何にも考えられなかった。吸い込まれる。まさにその通りだ。気がつくと当たり前のように、俺はお前の唇に口付けていた。

叩かれた左頬が痛てぇ、だがそれ以上にルキアの視線が痛てぇ。痛くて顔を上げられねぇ。

「・・・なぜだ?」

気まずい沈黙を破ったのはルキアだった。
声が弱弱しい、まさか、泣いているのか?

「なぜ、こんな事をした?」 「わりぃ…」

情けない俺は謝りながらも、元の幼馴染に戻る言葉を考える。
さっきの事を無かったことにできねぇかと、必死で頭を巡らせるが、死神でもそんな事できるわけがねぇ。

それが分かっていても、なお、想いを口にする事は不可能だ。
否定されたくない。
瞳にうつることは適わなくとも、せめて傍にいたいと願う俺は、どこまで女々しいんだろうな。

「違う。なぜ、こんな事をした?と聞いているのだ」
「・・・」

静かに問い続ける声にルキアの怒りが深いことを知る。
あぁ、やっぱり駄目だ。
声がでねぇ。

「わかった。もう、よい」

ルキアが静かに俺の前を立つ。
俺は、・・・動けなかった。

傍から離れていくルキアから、ひらり、と一枚の花びらが舞う。
それは、ふわりふわりと夢のような軌跡を描いて、俺の手の甲に、落ちた。

「!!離せっ、恋次!!!」

ずっと焦がれ続けた温もりが腕の中にある。
己を絡め取る腕から逃れようとする体は、想像通り小さくて、想像以上に柔らかい。 こんなに容易い事だったのかと驚いたが、予想通りだとも思う。

「一度しかいわねぇ」

暴れ続けていたルキアの動きが止まる。
顔を上げたのがわかったので、俺も頭を下げて、正面から視線を合わせた。濡れた、紫の瞳がキラキラ光る。
心臓の音が煩い。咽喉が渇く。口の中が乾いて、上手く動くか不安になる。

言ったらもう後には戻れない。
こいつの傍を離れなくてはならないかもしれない。

それが何よりも嫌で、一番言いたいのに、飲み込んできた言葉。
頭の中で数え切れないくらい、言った言葉。

「好きだ」

言った。
言っちまった。
とうとう言っちまったな。
ルキア。お前はなんて言うんだ?
聞くのが、怖ぇ。

「言うのが、遅いのだ、莫迦者」

大きな瞳に涙がみるみる溜まっていく、何かに耐えるように顔を歪ませると、俺の胸に顔を埋めてルキアは言った。

とても小さな声だったが確かに言った。
桜のざわめきがその一瞬だけ、掻き消えた気がする。

「私も。恋次が好きだ」

幾月、幾年、その横顔を見つめ続けただろうか?
考えるのも馬鹿らしいくらい、長い時間、俺はお前を見てきた。
その瞳に俺が映るのを願って。
その願いが適った今、次に願うのは。
幾月、幾年、その横顔を見つめ続けた時間以上に、お前と共にいたい。
柄じゃねぇけど、誓うぜ。
誰よりも、ルキア、てめぇを大切にすると。





頭の中がピンクですいません。
[18.1.29]