うそ



ルキアは嘘をつくのが下手だ。

「降ろせ!降ろせと言っているだろう、恋次!!」


誰もいない廊下を失踪する中、腕の中でルキアが吠える。
本当なら手足を動かして抵抗してーんだろうが、それは出来てねぇ。なぜなら俺が腕と足をしっかり押さえつけた形で抱きかかえているからだ。ルキアはめちゃくちゃ華奢だから、体がすっかり俺の腕に収まる。よって、この状況下でルキアに許された抵抗は吠えるか、少しばかり自由になる手で俺の胸元の着物を少し乱す程度。

「貴様っ!聞いておるのか!?怪我はないと言っているであろう!!」

ルキアがなお吠える。さっきから何度も聞いているこの台詞。確実に嘘だ。いい加減聞き飽きたっつーの。
だいたい何でこいつは俺にこんな嘘が通ると思ってんだ?俺がわからないとでも思ってんのか?だとしたら、馬鹿にしてるとしか思えねぇ。

「恋次!!」
「だー!てめぇはさっきから近距離でうるせぇんだよ!!いいから、黙ってろ!!!」
「たわけっ!黙っていられるか!!いいから降ろせ!!」
「こうでもしねーと、テメーをココに連れてこられねぇだろうが!」

走るスピードを落として、断りも入れずに足を使って目の前の戸を引く。

「せんせー、客!…っと、誰もいねーのか、珍しいな」

てっきりいると思い込んでいた、白衣の青年の姿はなく。からっぽのイスが俺らを出迎える。二つならんだベッドの上にも客はいなかった。死神統学院では実習や演習で、多少危険なことも行う場合があるため、けが人が絶えない。よって、ココ―救護室はいつも繁盛しているのだが。

「ったく、肝心な時にいやしねぇ」
「わぁっ」

先ほどから吠え続けているルキアを半ば放りだす様な形でベッドに降ろすと、机の隣にある戸棚の一番下を漁る。俺自身常連なので、どこに何があるのかは大よその検討がつく。難無く目的の薬を見つけて、ベッドに戻ろうと顔を上げると、そこにルキアがいた。俺になおも文句を言うため、ベッドを降りたようだ。偉そうにふんぞり返って眉を吊り上げ、頭上から不機嫌そうな声を降らせやがる。

馬鹿野郎。いい加減、不機嫌なのはこっちだ。何で気がつかねぇんだよ。
俺が黙っているのをいいことに嵐のごとく、ルキアがまくしたてる

「人の話を聞け!乱暴にも程があるぞ、貴様っ。人を荷物のように放り投げよって! それに何度も言ったが、私に怪我はない!先ほどの演習の際に受けた虚の攻撃は、鬼道が間に合ったのだ。確かに着地は失敗したが、衣服が多少汚れただけですんだ。無傷だ。たわけ。 これだけ言えば、さすがに馬鹿な貴様でも分かっただろう?さぁ、早く立て。わかったのなら演習に戻るぞ。教官に何の断りもいれておらんのだからな」

ひくり。と、こめかみのあたりが引きつるのがわかる。こいつ、あくまでも嘘をつき続けるつもりでいやがる。
あーそーかよ。ルキア。てめーがそのつもりなら、俺にだって考えってもんがあるぞ?
言いたいだけ言って、傍を離れようとしたルキアの胸元あたりを掴んで、強引に引く。簡単にバランスを崩す軽い体を肩を使って支えてやると、甘い髪の香りが鼻をくすぐった。
耳元に口を近づけて、低く、重く、言う。

「ルキア。俺に、嘘は許さねぇ」

ビクリとルキアの体が震えて、大きく見開かれた藍色の瞳に俺が映った。

「怒って…おるのか?」

今度はちゃんと俺の不機嫌さを感じ取っているようで、先ほどまでの強気な態度は一瞬にして消え。不安そうに俺を見る。問いに答えないまま、再びルキアを抱きかかえて再びベッドへと運ぶ。抵抗はない。今度は丁寧にベッドに座らせてやると、同じベッドに腰掛ける。ルキアがいる壁側とは別の方向を見て髪を解いた。
重苦しい沈黙が続く。だが決して俺から切り出してやったりはしねぇ、ルキアの顔も見ねぇ。
やがて、おずおずとルキアが口を開いた。

「す・・・すまぬ」
「何が、だ?」
「本当にすまぬ!まさか、そんなに怒っておるとは思わなかったのだ」
「だから、何が?」
「その…。怪我をしておらぬと嘘をついた事だ」

少し間をおいてからようやくルキアを見る。目を伏せて、袴をぎゅっと握る姿はガキみてぇだ。

「認めるんだな?」
「…」
「怪我をしてるってことを、てめーは認めるんだな?」
「………うむ」

…はぁ、こいつはマジで手間がかかる。変なとこばっか意地張りやがって。
左手を伸ばすとぎゅっと目を瞑るルキア。それに構わず、いつものように二回、ぽんぽんと頭に触れた後、乱暴に撫でてやる。

「馬鹿野郎。小さな傷でも治療できるなら、しとかねーと。後で酷くなることもあるだろうが。しかも、虚につけられた傷ならなおさらだ。どんな症状がでるかわかりゃしねぇんだからよ」

明らかにほっとした表情を浮かべて、ルキアが笑った。
畜生。素直なときはめちゃくちゃかわいい。

「ああ、すまなかった」
「わかりゃいいんだよ。で、どこだ?」
「は?」
「いや、怪我してんだろーが。どこだよ?」
「え、や、その…」
「?何、あわててんだ」

少し顔を赤くして、俺から離れようと壁の方に寄るルキア。手が胸元をしっかりと握っている。その仕草にピンとくるものがあった。

はぁん、なるほどな。読めたぜ、テメーがそこまで必死に嘘を突き通してたわけがよ。つまりは、怪我した場所を俺に見せると、俺が怪我人相手でもどうにかすると思ったわけだな。んー。今日はそういう気なかったんだけどなぁ。でも、そんなに警戒されたんじゃあ、リクエストに答えたくなるじゃねぇか。

内心、ニヤリと笑いながら、そ知らぬ顔で会話を続ける。

「おら、どこだ?早く見せろよ。見ねぇとどの薬ぬっていいかわかんねぇ」

ルキアが真っ赤になって俯く。手はまだ胸元に掛かったままだ。多分、俺の前に肌を晒す抵抗と、俺の機嫌をまた損ねたくない気持ちが葛藤してるんだろう。もう一押しっ、てところだな。

「早くしねぇと次の講義に間にあわなくなんぞ?」
「う…む。分かっておる。………その…、恋次。あっちを向いていろ」

「ん」

襟を緩める姿も見たかったと内心、悔しく思うが仕方がない。背後で微かに聞こえる衣擦れの音が止むまで待つ。

「もう、いーか?」
「………ああ」

スタートの合図だ。さて、リクエストにどう応えるとするかな。
振り返った俺は思わず、眉をしかめた。着物の前を肌蹴た状態だけでも明らかに異常が認められる。おおよそ、左のわき腹あたりから腰の辺りまで、斜めに紫色に変色したルキアの肌。
予想以上に怪我は広範囲だった。

「ひでぇじゃねぇか。大丈夫かよ?」
「いや、見た目ほど痛みはない。それより、早く薬をくれ」

できるだけ距離を取ろうとしているのか、やや腰が引き気味のルキア。恥ずかしさのあまり、顔もまともに上げていられないみてぇだ。声も固い。

「や、間違ったやつだとまずいからな。よく見ねぇと。骨やってるかもしんねぇし」
「ば…莫迦者!近寄るなっ!!骨なぞやっておらん!!!」

ルキアは俺から逃れようと後退するが、元々壁側にいたため、すぐに退路は打ち止めとなった。そのまま右手だけでルキアの両手を壁に縫いとめると、マジマジとルキアの姿を見る。
なんつーか、…めちゃくちゃやらしいよな、今のこいつ。
想像以上の姿に咽喉がなる。
完全に前を肌蹴た着物に、腰紐が緩められた袴。ルキアの白い肌が大幅に露出されている。しかし、着物も袴も絶妙のラインで肝心な部分を隠していて、何とも言えない色香に、触れたいという欲求がつのる。

「んっ、ちょ…、何をしている恋次!」
「治癒。ないよかマシだろ?」

ルキアの抵抗に構わず、再び痣のある所に口づけをおとす。その際に鬼道で治癒を施した。
まぁ、治癒は鬼道って言っていいのか微妙な代物で、詠唱なんかねぇし、死神でも使えない奴のほうが多い。どうやら、霊力の質に関係してるようだが、詳しい事をよく知らねぇ。ルキアは向いてるみたいだが、俺のほうはサッパリだ。痛み止め程度にしかならない。

「やっ…、ん…」
口付けを繰り返すうちにルキアの呼吸が乱れ始める。悪戯心でベロリと舌で舐めあげると反応するルキアの体。
…やばい。ちょっとコレは歯止めが………。や、さすがに怪我人相手にどーだよ?俺。つか、てめ。そんな潤んだ瞳で見んなよ!マジ、効かなくなるだろーが!!

「ふっ、恋次…。も…、いい。んっ、痛み…っ…ひいたぁ…」
「念のため、もう少しな♪」

「っっっっつ!だから言いたくなかったのだっ!あ、やぁ」

ルキアの肌に舌を這わせる。時折、痣の部分を避けて甘噛みをすると、面白いくらい良い反応を返す。
軽く音をたててくちづけて、唇で優しくなぞって、熱い舌でゆっくり焦らして、噛んで甘い刺激を与えてやるだけ。それだけでルキアは体に力が入らなくなりやがる。その度に俺はわらうのを止められない。
昼間に院でルキアに悪戯できるチャンスなんて、滅多にない。できるだけ長く楽しみたい。

「そろそろ勘弁してやるよ」

しばらく口づけを繰り返した後、ルキアから離れたがらない自身を無理やり宥めて、解放してやる。
もったいねぇけど、これ以上続けると本当に我慢がきかねぇし。へっ、そんな赤い顔して、涙ためた目で睨んでも怖くねぇよ。むしろ逆効果。

「…これのどこが治癒なのだっ」
「痛みひいただろうが」
「何も口付けせずとも、手で十分ではないか!」
「あ?何だ、触ってほしかったのか。じゃ、遠慮なく」
「たわけっ!寄るな!!違うっ、手をかざすだけで十分だと言っておるのだ!」
「それじゃあ、仕置きになんねぇ」
「し…仕置き?」

ぽかん、とした表情のルキア。

「おう。コレに懲りたら俺に嘘つくなんて真似はするんじゃねぇぜ?無駄だから」

他の誰に嘘をついてもかまわねぇ。だけど、俺にだけは許さねぇ。いつだって、てめーを見てきた。てめーだけを見てきたんだ。何だってわかるんだよ。きっと、てめーよりてめーを知ってる。
そんな俺に嘘?無駄だ、よしとけ、馬鹿にしてんじゃねぇよ。まぁた、やってみろ。今度の仕置きはこんなもんじゃすまさねぇぜ?
ルキアの顔が一瞬で赤く染まる。今日、一番だ。
その真っ赤な顔のまま、ルキアが予想外の行動をとった。スルリと細い腕が俺の首に回され、やわらかい感触が俺を包んだ。耳元でルキアの呼吸が聞こえる。

「ルキア?」
「貴様なぞ、嫌いだ。莫迦者」

熱を帯びた声でそう告げると、視線を絡ませてきた。瞳が笑っている。

「…こりねぇな、てめぇ」
前言撤回。どうやら、ルキアは嘘が上手いみてぇだ。





ごめんなさい!保健室で絡んでるのが書きたかったのデス。そしたらこうなりました…。
[18.1.29]