傀儡
ギィ。重い音をたてて扉を開ける。
誰もが不思議がる、この特権。この部屋の扉を勝手に開け閉めできるのは、部屋の主人以外は私だけらしい。まぁ、私には関心がないことだが。
「注文の物を届けに来たぞ」
来訪者なぞには気も留めず、もくもくとペンを動かし続ける部屋の主人に向かってため息をつく。いつも思うがよくこれで死なないものだ。 手近な棚においてある、この部屋では珍しい綺麗な小瓶を手に取ろうと腕を伸ばすと声をかけられた。
「触るな。猛毒だ」
「…そんな物はきちんと保管しろ」
口の端だけで笑う、あまり印象のよくない笑みを阿近が浮かべる。何となく粘着感のある視線がルキアの全身を巡った。
「似合うな」
「貴様が贈りつけたのだろう」
深紅のドレスに深紅の靴。嫌味なくらいサイズに狂いがない。貴様はどこぞの貴族か?と鼻で笑ってやろうか。
「ああ、だから褒めた。…しかし、注文は記憶にない」
「貴様の注文ではないからな。松本殿からだ。『協力してくれたお礼よ。1時間だけ貸してあげる』…という伝言を受け取った。まったく、いつから私は物になったのだ?」
本人には言えなかった憤りを阿近にぶつけるが、受け取ってくれるような奴ではない。サラリと無視されたそれはぐるりと部屋を一周して帰ってきた。
「ふん。そういう事ならありがたくうけとっておこう。ソファにでも座っていろ」
作業を中断する気はないのだろう。再び書類に向かい、ペンを動かし始める阿近。ルキアはぐるりと視線を部屋の中に泳がせるが、特に興味が惹かれるような物はなかった。 珍しいと思いつつ、皺にならぬよう慎重にソファに腰掛けた。しかし、その努力むなしく着慣れない洋装はルキアの思惑とは違う動きをする。
しばらくドレスと格闘するが、どうにもこうにも上手くいかない。綺麗に座らせてくれた檜佐木殿や恋次はどうしていたのだと疑問に思う。あっけなく敗北を認めて、適当な位置に落ち着くと、 思考は阿近へと集中された。
「どちらかというと貴様のイメージだな」
ソファに寝転がりルキアは呟く。
「何がだ?」
「人形師だ。あの本に書かれている人形師の容姿は檜佐木殿のような男性だが、中身・・・というより本質か?それはお前に似ている気がするよ」
黒くて冷たい焔を胸に灯す青年。
ただ一つのものに執着するその心は恐ろしく。そして、少し愛おしい。
カタリとペンを置いて阿近がこちらを見る。
「ふん、馬鹿を言え。俺はわざと失敗したりなぞしない。作り上げるなら、完璧なものを作るぞ。それが愛おしいものなら尚更な。細胞一つから徹底的にだ。この世で唯一無二の完璧な物を 作り上げる。だから安心していろ」
「…よけいに不安になったぞ」
凶悪な笑みを前に怖気づく。
再びペンをとる阿近。話す気がなくなった様子にため息を増やして、天井へと視線をやる。やたらと高いそれには仄かな明かりしかと持っておらず、ちろちろと揺れるような感覚に不安が煽られた。 逃げるように目を閉じ闇を迎え入れる。
(こんな所で生まれたのだろうか)
本に綴られた少女の生を思う。身代わりの青玉。
体が作られた工房は、このような部屋だったのではないだろうか。流れが止まり、淀みが生じ、目には見えない何かが溢れた、ココ。その淀みに名をつけるとしたら、 執着だとか妄執だとか、未練だとかになるのだろう。しかし、きっと、一番似合うのは愛という言葉だと思った。
代わりだったかもしれない。偽物だったもしれない。でも、やはり、それはそれで愛なのか。
その愛に応えて奇跡を起こした青玉。
奇跡は喜びと、それ以上の苦しみを与えた。奇跡は唯一を奪い、無二を殺す。愛し、愛され、愛に散る。
「なぁ、阿近。愛とは何だろうな?」
考えた事がないわけではない。でも、答えなぞなくともかまわないと思っていた。
「知りたいのか?」
暗い声が暗い部屋に響く。
この男はこの部屋に似合いすぎる。
「ああ、知りたい」
素直にそう思った。
だから、そのまま口に出す。
阿近ならば答えを知っているに違いないと考え、阿近などに答えられるはずがないと感じる。
ギシと二人分の重みを受けてソファが軋む。
つい先ほどまで机の上にあった無表情が、間近にあった。
グレイの瞳が顔を映す。
ゆるゆると細い腕が伸び、乾燥した手が頬なで髪を梳いた。
揺るやかに、優しく。
利き腕をとられて、口付けられる。
手首から指先へと、徐々に場所を変え、最後にぴちゃと水音をさせて人差し指をしゃぶられた。
そして、もう一度、手の甲に口付けると阿近はルキアの手を離した。
一度も視線をルキアから離すことなく。
「それが愛か?」
「俺のな」
ルキアの上から退くこともせず、しかしそれ以上触れようともしない。
阿近の腕に挟まれ、身動きの取れない状態が窮屈になって、阿近の体を少し押すとあっさりと退いてくれた。姿勢が並んで二人座る形になると、先ほど阿近を押した手を痛いか痛くないかの 微妙な力加減で掴まれる。微妙な感覚がとてもむず痒い。
「………わからぬ」
「分かってもらっちゃ困る。これは俺のもの。お前は受け取るだけでいい」
抱き寄せられて、額に口付けられた。
先ほどまでなかった抵抗が心に生まれる。
「受け取るだけ?」
「ああ。全部、俺に任せておけばいい」
そう、静かに告げる阿近。
心がザワザワする。それは違うと言う。どう違うのかと尋ねれば、答えは出ないくせに。違うと確かに主張する。どう違うかが知りたい。
すると逆に問われた。
『では、どうしたいの?』
やんわりと阿近の腕を解いて、その体から自分を離す。引きとめはしないその指が、阿近らしいと笑った。
「時間だ。また来る」
言葉を発しない阿近に向かって、そう告げる。来た時同じように勝手にドアを開け、勝手に出る。
外に出ると、明るい太陽が身を射した。
綺麗だ、気持ちがいい。
阿近が嫌うこの光がルキアは好きだ。
それでも、この明るい太陽の下には、アレらはない。
どうなっているのだろう?と以前から気になっていた角は、ちゃんと皮膚と肉の感触を感じた。
軽く触れただけだったので、その奥がどうなっているかは分からない。
次の機会には齧ってみようか。
そんな事が一瞬、意識に浮かぶが、この後に待ち受けてい
紫星様の5555リクエスト「恋ルキ&修ルキ&阿ルキ」の阿ルキ。
恥ずかしい…。これはめっちゃ恥ずかしいぞ!?ここまで恥ずかしいなんてっ!!!
人を呪わば穴二つ…。
ではなくて、穴があったら入りたい。
と、いう事で紫星様のリクエスト完遂!って事にさせて下さい(涙) カプ独立で1シリーズ。
修ルキはちゅーで。恋ルキはだっこ。阿ルキは微エロ?
腕ちゅーとか、指ちゅーがエロいとぜろわんは思ってます。それが利き手だったら更に…。
アイアイアイアイ連打しまくったシリーズ。(ぎゃおー!)
お付き合いありがとうございました。
[18.5.29]