舞台外
「あー駄目!どうしても無理があるわ!」
そう松本殿は部屋中に聞こえるような声で言った。常ならば、親切な誰かが溜め息まじりにその訴えに応じるのだが、少し待ってみてもその気配がない。不思議に思って読んでいた本から視線を上げると、机の上で台本を押しつぶしている松本殿だけが見えた。
「…」
ん?先ほどまで松本殿が出したゴミを片付けている雛森殿がいたような気がするのは私の気のせいだろうか。
「………」
続いて右を見る。小山のように詰まれた衣装箱と作りかけの衣装、小道具、裁縫道具等が床に散乱している。そこには先ほどまで必死な様子で縫い物をしていた死神達がいた筈だ。
「………………………」
今度は左を見てみた。そこは私が腰掛けているソファとセットになっている横長いタイプのソファが置いてある。その上には、いつも綺麗に整えられている金髪が多少乱れ、死覇装が皺になるのも気にせずに、溜まりに溜まっていた仕事を片付け終えた吉良殿が屍のように眠っている。
「………………………………………………………………………」
できるだけ時間をかけて正面に視線を戻す。そこには変わらず、机の上に頭をのせたままの松本殿がいた。ただし、すでに額は机に付けられてはおらずこちらを向いている。つまり瞳もこちらをむいているというわけで。
「………………………………………………………………………………………………………」
コツコツコツコツと秒針が時の流れをつげる。背にツと冷たい汗がと流れた。
落ち着け。落ち着くんだ、私。あの瞳に負けて、この一言を言えば、どうなるかは目に見えているではないか。この一月でどんな経験をしたか忘れたわけではあるまい?そう、忘れて…忘れ………。
教訓を生かそうと過去の経験を思い出して、視界が滲んだ。思わず「くっ」と声を殺し、松本殿から視線をそらしてしまう。
「朽木。それ以上の事するわよ?」
「松本殿。どうされたのですか?」
瞬時に笑顔が作り出せるようになったのが、今後、何かの役に立てばいいと無理矢理考える事にした。