舞台外



「すいません!日番谷隊長、かくまってはいただけませんか!?」

らしくない様子で荒く障子を開けた朽木は、室内に飛び込むなりそう俺に言った。

「こっち来て、後ろにいろ」
「あ、ありがとうございますっ」

多量の書類を抱えた朽木の後を追ってくる、とても覚えのある霊圧を感じるだけで大体の事情は呑み込めるってもんだろ。パタパタと朽木が駆けてきて、俺のすぐ後ろへと回り込み小さく丸まった。

「隊長ー!朽木見ませんでしたっ!?」

最近、執務室で顔を見ることのなかった直属の部下が悪びれた様子を欠片も見せずにひょっこりと顔を出す。

「松本。てめぇ、久しぶりに顔を見せたと思ったら、言うことはそれだけか?」
「今の私には仕事をしている暇なんてありませんから」

ぬけぬけと部下は笑顔でそう抜かす。それはもう予想済みで、俺は前から用意してあった普段ならまったく出さない笑顔で(珍しくとは絶対に言わねぇ)部下を迎えた。

「そーか、そーか。それはそれで構わねぇが、お前の机の上にある書類は一枚たりとも減っていない事を忘れるなよ?」

俺の机の斜め前に設置してある机には、文字通り山となった書類が積まれている。
それを見た松本の顔色がさすがに変わり、いつもの笑顔の厚い面の皮がひきつった。「あー」だの「えーっと」だの得意の口先で誤魔化す手段を考えているようだが、目の前の証拠が口先だけで消える筈もなく、渋々とため息をつくと口を開いた。

「…別の所、探してきまーす。だから、隊長。変な事しちゃだめですよ?朽木は今。うちの看板なんですから」

去り際に意味ありげなウィンクを一つ残して、賑やかな部下はようやく去っていく。
…やはりバレていたか。まぁ、この場合は隠すことでなく松本を追い払えばいいのだから、目的を達成したと言っていいだろう。

「おい。行ったぞ?………って、寝てるし」

よほど疲れているのか、椅子に背を預け、膝を折って丸まった姿勢のままで、朽木が穏やかな寝息をたてている。無防備に。
………………………………………………仕方ない。ちょっとだけこの寝顔を独占しよう。
椅子をできるだけ動かさないように気をつけると、俺よりも少しだけ高い背を持つ体を抱きかかえる。
柔らかくて、いい匂いがした。

「檜佐木のやろーは毎回、これに触ってんのか」

思わず声が出る。とても面白くない。松本の書類で別隊に回せるものはすべて9番隊に回そうと決め、ソファへと朽木を運ぶ。
瞳を閉じたままの朽木を暫く見つめて、こっそり詫びる。
先ほど、松本に追いかけられていた用件であろう『舞台人形師の企画第二段』の書類は、「ドレス姿の朽木と二人きりの時間を過ごしたくないんですか?」という松本の誘惑に負けて、判をすでについてしまった事。そして、恐らく同様の誘惑に負けた隊長面々が殆ど印をついていた事を。
逃げても無駄だ教えてあげるのが親切かもしれないけれど、またココに逃げてきてくれる可能性がある限り、それを口にしない自分を自覚してもう一度詫びの言葉を囁いた。