drop



空を見上げれば雲。大地を見下ろしても雲。
青く晴れ、白い雲が気持ちよさげに浮かぶ中。ルキアは機嫌よく空の上を歩いている。浮かぶ大地を踏みつければ、ピチャンという水音と共に波紋をつくって青と白が溶け合った。また一歩大きく踏み出せば、フードのついたビニル素材の裾も揺れる。優しい色のコートはルキアと一緒にくるりと踊る。

「何がそんなに面白いんだか」

すぐ後ろの男はそう呟いて灰色の道を選んで歩く。

「煩い奴だな。せっかくのいい気分を壊すな」

そう言ってルキアは再び空の上を渡った。軽やかな体はどこまでも駆けていけそうだ。空への階段はきっと透明で、踏むと水音がするかもしれない。

ぴちょん。
ぴちょん。
ぱしゃん!

「おら。飴玉やるから、水溜りはねさせるのやめろよ」

成長途中の骨ばった手に似合いのピンク色の包み紙。ころんと転がるその丸さに、ぱちくりと瞳を丸めてから、男を見上げてから微笑んむ。

「安い餌だな」
「いらねーなら、手を伸ばすんじゃねぇよ」

乾きかけたコンクリートに透明な足跡がついた。




きみにふるあめ















color



赤・黄・橙・桃・水色に白。

明るい色を詰め込んだ片手に載る小瓶。優しく振ると楽しげに揺れてカランと色んな音がする。普段の自分が好むような静かな音ではなかったが、そんな音もとてもいいともう一度振ると賑やかな声を共にしてきた。

「あれ?隊長。珍しいものをお持ちですね」

昼食から戻ったばかりの松本がスと指の長い掌を見せ付けるように差し出した。言わんとする事は分かったが、端からそのつもりは欠片もない。机の隅に無視しておけば、小瓶がコトンと小さく泣いた。それと同時に部下は目の前で予想通りの不満げな声を上げる。

「うるせぇよ」
「いっこくらい、いーじゃないですか」

いつもならば上司だろうと遠慮なく、自分の言いたいことを告げる部下を僅かながらも羨むのだが今日だけは自分の口下手に感謝した。

「言わなくてよかった…」

部下にもばれないように肘を突いて顔を隠し、小さく小さく呟いてみる。

書類に添えられた小瓶。
小瓶に添えられた「どうぞ」という短い言葉。
それに光る爪。

それを知っているのは、まだ自分だけでいいかもしれない。せめて赤面しないようになるまでは。
まさか爪が小瓶の中身よりも甘そうに見えただなんて。そんな馬鹿な事を思わず口走りそうになっただなんて…。そんなの絶対に俺が言う言葉じゃないだろう。色の中から赤を選んで放り込むと仄かに春の香が口の中に広がった。




甘い例外















細工



「食わねぇの?」

その言葉に心底驚いたような表情にこちらが驚く。何を言っている?とばかりに寄せられる眉にため息を。先ほどまで機嫌よさげに笑っていた唇はどこへや行ってしまっというのだろう。ころころと変わる表情はまるで魔法のように不思議でしかたがない。さて、お姫様?今のは何がお気に召さないと仰るのでしょうか。

「溶けたら悲惨な事になるぜ」
「涼しいから平気です」

先ほどの見とれてしまうような笑顔から一変した表情は、高価な櫛を贈った時と同じものに成り果てた。櫛が嫌いな訳ではないだろう。そんな表情を浮かべつつも丁寧に礼を言い受け取ってくれたのだから。ましてや、手にしている飴細工が気に入らなかった筈がない。だって、先ほどまで本当に笑顔を零していたのだから。

女は贈り物に弱いなんて誰が言ったんだ。

「檜佐木殿は思っていたよりも鈍い殿方なのですね」

お前が変わってるんだ。とは言わないでおく。

「女が喜ぶ物ではなく、私が喜ぶ物を贈ってくださったのは初めてでしょう?」

それは同義ではないのだろうか。と首を捻る事も忘れてただ受け入れてしまった。見せ付けられた微笑みとウサギからのキス。誘っているつもりはないのだろうけど。そう考えてしまう男心も知って欲しいと思う。




先人の言に含まれる1oの誤差















金色の砂糖



「腹へったな…」
「そうだな…」

そろそろ夜が開ける頃だというのに深い闇に包まれた小屋の中。聞こえるのは仲間の穏やかな寝息。それと空腹に鳴る腹。

寝て誤魔化すのが難しいほど空になった胃に、今日こそ何かしらの成果を上げなければと強く意思を持つ。

「眠れないのか?」
「お前こそ」

静かな空間に僅かに対話が響く。隣で体を動かす気配がして、どうしたのかとそちらを見ればいつの間にか間近にルキアの顔があった。

「ぅおわっ!!!」

慌てて体を離すときに口の中に白いものが放り込まれる。驚いて、吐き出す前に口内に広がった甘さに目を見開いた。

「お前。これっ!!」
「最後の金平糖だ。ちゃんと味わえ」

至近距離の笑顔に怒りを覚え。

「今日は金平糖よりもっと良いものを食わせてくれるのだろう?だから、怒るな。期待しているぞ」

続いた言葉に肩透かしをくらう。

任せておけよ。と繋いだ手を強く握り返し。触れる勇気の持てない唇に、まだ甘さの残る金平糖が移らないかと少しだけ頭を寄せる。夜が明けるまでの僅かな時間だけ、甘い夢を分け合って過ごした。




並んで歩こう?