疑問。謎。不思議に不可思議。知りたくて、知りたくて仕方が無い。
諸刃の剣とは百も承知。
これはどの壁を打ち壊す一撃だ?



「俺とお前って、なんだ?」

いつもいつも躊躇ってきた言葉がついに宙に放たれた。見えないはずのルキア。触れられないはずのルキア。出会わなかったはずの俺達。そんな二人が向かい合うのは奇跡のだろうか?何の前触れもない言葉に驚いた顔をすると思ったルキアは、予想通りに目を丸くして。こんな情けない顔をした俺を馬鹿にする言葉を作り出すと思った唇は、予想外に微笑んだ。
笑った唇から答えが飛び立つ。

「決まってる。片翼だ」

自身に満ちた瞳はすべての光を飲み込むように煌く。安っぽい蛍光灯の下でもそれは変わることなく美しい。その美しさは決して原石には有り得ないもの。ルキア自身の心によって磨かれた瞳。キラキラと星よりも優しく瞬いて俺を捕らえる。

「一護。私はお前とならどこまでも飛ぼう」

偽りなく心に響くルキアの欠片。色あせることなく、持ち続けられたら…と、強く願った。




僕は君の右手。君は僕の心臓。















うち



『名前を呼びたい』決して忘れる事の無い、心の底に眠り続けるその名前を。呼べば、『手を伸ばしたい』数え切れぬほどに触れたその髪に。触れたら、『聞きたい』幾度と無く呼ばれた、その優しい声で。聞けると、『見たい』大きな目をハッキリと開けて、しっかりと俺の姿を映す。一度ゆっくりと瞬き。再度、開けられた時に緩やかに紫の瞳が細められる。その瞬間を。

最後は俺の所へ。

それなら言うよ。それなら待つよ。君が望む場所で。いつまでもいつまでも、君に手を伸ばしながら。迷うのなら迎えに。立ち止まるのなら手を引きに。落ちるのなら抱きとめに行こう。ここへ帰りたいのなら。


「ルキア!」
「………………恋次」
「遅かったな」
「そう…か?」
「待ちくたびれた」
「それは悪かったな。………ただいま。恋次」
「おぅ。おかえり。ルキア」


手を繋ぎに帰っておいで。




貴女を捕らえた言葉。貴女に繋がれた両腕。















ズルイ



『ずるいと思いませんか?そんなの不公平だと思うでしょう?』

一人はどうしようもないくらい本気。誰よりもその人が気になるし。誰よりもその人の声を聞きたいと捜すし。誰よりも先にその人の姿を探し出して最後まで目で追うし。誰よりもその人に会いたいと願っているのに。

もう一人は何も気にせず。何も捜さず。何も追わず。何も願わずに。感じず、思わず、まるで冗談のように笑って時を過ごすだなんて。

『ああ、どう考えてもずるい』

一人は知らない。その声を聞けるのがどれほど嬉しいかなんて。
一人は知らない。その瞳に自分の姿が映るのがどれほど嬉しいかなんて。そして、とても悲しいなんて。

『だって。その声で他の名前を呼んだのでしょう?』
『だって。その瞳で他の人の姿を映したのでしょう?』

僅かに視界に入れたあの人は、嫉妬されているだなんて考え付きもせずに、やっぱり笑っている姿は、どうしようもなく魅力的で。どれほど焦がれているかを思い知らされた。

『ああ、ずるいずるいずるい』

あんまりにもずるくて、あんまりにも不公平だから、せめてもの仕返しに。どうして欲しいのなんか分かっているけれど。何を望んでいるのなんか分かりきっているけれど。分からないはずないのだけれど。少しくらい同じ気持ちを味わって欲しいから、名前なんて呼んであげない。


「よぉ、朽木」
「こんにちわ。檜佐木先輩」




笑顔の下に埋める気持ち。















in the mirror



欲しい。欲しい。欲しい。
すべてを。


「酔狂だな」

硝子の向こう側で閉じ込められた光がそう呟いた。着飾ることの無い矮躯。身一つで対峙する、その皮膚は極上の絹よりも滑らかに。綺羅やかに瞬く。ゆっくりと丸めた体を起こし、紫色の瞳が暗い淵を覗き込んだ。しかし、闇において星がその明るさを増すように、その眼光には更なる力が宿る。その瞳を抉り出し、咀嚼すればどのような音がするだろうか。カチリと金属質な音か、カシュリと果物を食む音か。いずれにしても甘いに違いない。

ペタリと触れられた手を硝子越しに合わせる。咀嚼する事の出来ない瞳を硝子越しに舐めた。

「酔狂?違うな。お前に惹かれないほうが狂ってる」

何故、分からないのか。
これほどの者はない。これだけの存在もない。これだけを造れるのならば、何を投げ出そうとも構わない。何百何千何万何億の犠牲を出したとしても、必ず辿り着いてみせる。…可能ならば。

「やはり、酔狂だ」

赤い唇が笑った。




天を踏みにじり、神に跪く















雪の華



サクサクサク。

新雪を踏む音が二つ。まるでた意思を通わせたように同じ音で、深深とした世界の中に存在の証を真っ直ぐとつけていく。手毬が遊ぶ和傘の中。触れたり、離れたりする肩と肩が忙しなく動いていた。

熱を逃がさないために袖の中に突っ込んだ指が落ち着かない。絶えず変化する距離がもどかしく、考えても仕方がない事ばかりが頭を過ぎる。馬鹿馬鹿しい。考えるだけ無駄だ。意味が無い。………けれど。この背がせめて彼女よりも1pでも高いなら、白い指先が赤く染まるのを見ることは無かったのだろう。生きた年月がせめて1日でも彼女より長かったのなら、肩に触れたままでいられただろう。

せめて
せめて
せめて

舞い落ちる雪の華。それよりも深く心に積もる言の葉。掻き分けて進んでも、進んだ道を消してしまう。振り返っているうちに、進む道を消してしまう。

もがいて
もがいて
見失って。
俺はどこ?


「見てください」

少し弾んだ声と同時に下ろされた傘。光が目に飛び込み、眩しくて俺は目を閉じる。パチンと傘が閉じられた音がする。その音で朽木は俺に魔法をかけた。赤い指先に載る一面の銀世界。

「日番谷殿の世界ですね」

初めて繋いだ手は雪の温度だった。




白い画用紙に塗られた無邪気な色を追って