戦神
ちりり。ちりり。ちりん。
墓場に鈴が舞う。
―――重い。
そう感じてルキアは腕を持ち上げるのを諦めた。寒さを感じる感覚以外は鈍くなった体で、唯一明瞭な視界に映るのは大きな口。パックリと開けられ、白い歯が生え並び、その奥には赤い舌。
その更に奥には暗闇の世界。
私は今からソコにいくのか。
裂かれ、砕かれ、肉塊となりはてて。
血と魂を混ぜあわせて、ソコに落ちる。
なんて似合いなのだ。
笑うことの出来ない体で思い切り笑いたい。笑うことができないのが残念だ・とそれすらも可笑しく思って、これからの自分の様を想像しながら虚に食われるのを待った。
斬。
唐突に切り取られる暗闇。視界に広がる赤い空。
そこに死がいた。
そこに力があった。
刃がボロボロの斬魄刀を振りかざし、ただ戦いを求めて駆ける男の姿が。
まるで捕食者のごとく男は獲物を追い、容赦なく振り下ろし、命を絶つ。
歯向かってきた者には喜々として。
逃げ惑うも者には蔑むように。
しかし、等しく凶刃は振り下ろされる。
等しく死を与える。
鈴の音と共に。
怒号と悲鳴と嘆願と狂笑が場から取り払われるまで、大した時は掛からなかった。
サクと不釣合いな優しい音をたてて男が私の傍に立って、
「何だ生きてやがんのか」
と、とてもとてもつまらなそうに言うものだから。
私には死を与えてくれないのだと悟って、薄情な男に向かって蹴りをくれてやりたくなった。
髪結い
くるくる、しゃらん。
女の髪を彩った簪は、綺麗な音をたてて、女の美しさを褒め称えた。
切欠はその子のが漏らした言葉だった。
「弓親殿の御髪は本当に綺麗ですね」
僕に言わせれば、それは当然の事だったのだけど、その子のあんまり羨ましそうな声と、珍しい紫色瞳が気に入って少し会話をする気になった。
「君の髪も綺麗じゃないか」
小柄な少女の肩までの髪は、十分に艶やかで美しい。
確かに僕の髪には劣るけれど。それでも彼女の髪が美しいことには変わりは無い。僕は美しいものに美しいと言うのは躊躇わない主義だ。
「いえ、私のはくせっ毛で…。弓親殿のような真っ直ぐな髪がとても羨ましいのです」
「そうかい?ありがとう」
中々、見所のある少女に礼を述べる。
そして、ジックリと検分した。
華奢な体。長く細い手足。色素の薄いきめ細かい肌。紫色の瞳。仄かに色づくぷっくりとした唇。
そして烏の濡れ羽色の髪。
確かにそれはくせっ毛だけど、それはそれで少女に似合っている。
やはり綺麗だ。
それに気が付いていないなんて。
何て悔しいんだろう。
勿体ないんだろう。
「ちょっと、こちらにおいで。朽木嬢」
手招きをすると控えていた廊下から、執務室へと遠慮がちに歩を進める。
僕の近くに座らせると、先日買ったばかりの簪を一本取り出す。
あまり発光しない銀色の細かな花と鈴の付いた髪飾りは、きっと彼女にも似合うはずだ。
しゃらん。
鈴の音だけが室内に響いた。
「はい、出来た。それならくせっ毛も関係ないだろう?」
軽く編んで結った髪は我ながらよく出来ていて、少女に似合っている。
さすが僕。
「それあげる。はい、書類もできたから持って行っていいよ」
出来栄えに大満足した僕は、未だに手鏡を覗き続けている朽木嬢の反応にますます気をよくして、気前のいい事を言ってしまった。 その後、礼を言う朽木嬢の微笑みにちょっと目を奪われるなんて、悔しい思いをする羽目になるなんて思ってもみずに。
童謡
鈴の音がなるように。
軽やかに。
可愛く。
綺麗に。
そんな風に流れてくる声が聞こえてくるほうへ。
「ねぇ。それなんて歌?」
声を追っていくとそこは大きな木。声の主の姿を求めて、ぴょんと枝から枝へと飛び移った。
そこにいたのは一人の死神。
伏せていた長い睫を開けると、とっても珍しい紫色の瞳に私の桃色の髪が映った。
「!!草鹿副隊長!?し…失礼しましたっ」
慌てて姿勢を正そうとするその子に向かって、私は不満を告げる。
「あ、駄目。歌うの止めちゃ」
「え?いや、しかし…」
「いいから、いいから。もう一回歌って!」
「…はい。では、僭越ながら」
その子からさっきと同じ歌が流れ出す。
優しい声。
優しい瞳。
優しい歌。
優しい、優しい、優しい空気がその子の周りに留まる。
その短いメロディーが終るのはすぐで、私は何度も何度も歌をねだる。
その子は「はい」と笑って、何度も何度も歌ってくれた。
「ねぇ。それなんて歌?」
最初の質問を最後のお願いにする。
教えてちょーだい。
困ったように笑って、その子が答える。
「さぁ、私も知らぬのです。昔、傍にいてくれた者が寝付けないときなどに歌ってくれました。それを聞き覚えただけですから」
「そっかぁ」
「申し訳ありません」
寂しげに笑うその子の傍に、もう歌ってくれた人はいないのだろうか。
あんなに優しい歌を歌ったくせに、離れるなんて。
そいつは馬鹿決定だ。
ホントの最後に「ルキアちゃん」の名前を教えてもらって、手を振った。
早く剣ちゃんに教えてあげたいという気持ちのまま。
超特急で帰路を駆けた。
指きり
くるりと体を丸めて、狭いスペースで寝ている奴に向かって思わず突っ込む。
「猫か。お前は」
両端に鈴のついた、今は閉じている瞳と同色の、飾り紐を返答の代わりにチリリと鳴らす。
はい。よく出来ました。
いつもの無愛想な声とと違って、何と可愛らしいことでしょう。
可愛いくせに、憎らしい。
憎らしいくせに、可愛らしい顔が右半分だけ覗いた。
薄っすらと赤くはれた右目。
端には鈴よりも小さい、小さい、透明な玉が一つ。
「馬鹿か。俺は…」
さっきはルキアに突きつけた言葉を、今度は自分へ。
使いまわされた。しかし、決して錆びはしない鋭いその言葉はグサリと心を貫いた。
「…白玉でも買ってくるか」
ルキアと同じで、素直とはいえない自分の口。
苦労するのは目に見えている。
だけど。
その後には、頑張ってよかったと思わせるご褒美が待っている。
とっておきの。
だから、仕方ないんだよな。